話を聞いている最中、いつの間にか紅玉は煌の女官の元へと泣き所を移していた。
しかしそれに気付かなくなるぐらいにはシエルに衝撃を与えていた。

要約すると話はこうだ。
シンドバッドが煌帝国に訪れた際に紅玉を自室に連れ込み、事に及んでしまったのではないかと。
背後から気を失わされて、起きたら全裸の男が隣で寝ていたら誰でもそういう考えに到ってしまうだろう。
数日前、朝起きたら全裸のシンドバッドが隣で寝ていたことを思い出し脳内は絶望感で満たされる。
それはシンドリア側からも言えたことで、全員の視線はシンドバッドに向かっていた。



「王!シエルちゃんというものがありながら!」
「そうだぜ王サマ!あの日は全然酔ってなかったから大丈夫だと思ってたのに…見損ないましたよ!」

「確かにあれはシエルがこちらに来る前でしたが…まさかこんなことになるとは…」



ヤムライハがその場にへたり込んでしまったシエルを抱き締めながら叫んだ。
珍しくシャルルカンがヤムライハに同意し、ジャーファルは頭を抱える。
相当なショックだったのか、シエルはどこを見ているのかわからないような視線を宙に浮かべ、唖然と口は開いたまま。


「ち、ちょっと待て!俺には全く覚えがないぞ!」
「じゃあなぜ、あなたは起きたら裸だったの!寝ている間に自然に服を脱ぎ捨ててしまうことがあって!?」


「うむ。それはよくあることだ!「ふざけないでっ!!」


ガキィィン




紅玉の言い分はもっともだ。
もうさっきの決闘とは一体なんだったのかわからない。

再度シンドバッドに剥かれた紅玉の牙は再度シエルに阻まれた。
しかし見てわかるレベルでシエルの意識はハッキリしていない。
まるで魂が抜けているような、そんな表情であったがもう体が自然に動いてしまうレベルなのであろう。


「シエル!俺はやっていないぞ!」
『…』

「シエル!?」

「ついにシエルからも見捨てられちゃったね」
「だ・か・ら…!俺はやっていない!」


状況の収拾がつかないままに場は混乱を招くばかり。
両肩をガシッと掴んで必死に弁解を試みたがシエルは無反応。
ヤムライハがサッとシンドバッドからシエルを遠ざけピスティが笑う。

紅玉の部下、夏黄文がこの場を纏めようと話を纏めた。




「つまり…こういうことでありましょう…シンドバッド王は自分に気のある紅玉姫に目をつけ…証拠隠滅のため姫君を昏倒させた上で行為に及んだのでありましょう!」


「うわぁぁサイテー!」
「ひでぇ!!!」
「最低ですね」


「お前ら信じろよ…自分の王を…」



非難非難非難の嵐。
その非難はすべて部下である8人将の者たちから。
まさかここまで自分に非難が集まるとも思ってもいなかった。


「エルさん!エルさんしっかり!」
「おーいシエル!戻ってこーい!」
『………』


そしてシエルにここまで心身ともにダメージを与えているとは思いもしなかった。
完全に虚ろになってしまったシエルと目も合わせられなくなり(というか、ヤムライハが合わさせてくれず)誤解は誤解を招く。



「まったく…聞いてりゃ好き勝手言いやがって…俺が外交の最中に酒で失態を犯すなどと、お前たちは本当に思うのか!?」



その問いに肯定的な答えが返ってくることはなかった。
それどころか帰ってきたのは否定的な視線。

「思います」

ジャーファルのきっぱりとした否定。



「私たちはあなたを心底尊敬しておりますが "酒ぐせ" この一点のみにおいては信用しておりません」



そして語られる痴態ともいえよう過去が暴露されていく。
昔から現在にまで及ぶ痴態に臣下たち全員、そしてアリババまでもが肯定の意を見せた。
今までのことは否定できない。
しかしシンドバッドにも威厳というものがある。

今回はやってない、信じてくれと言っても返ってくるのは全て否定的な言葉。


「信じられませんよね…」
「毎度の事っスからね…」
「酔った王に手を出されかけたという女性からの苦情が絶えません」
「そうそう、こないだなんてすごいおばあちゃんに手出しそうだったよね!」
「実は私も一度手を出されかけたことが…」


そろそろシエルの精神的ダメージが最高潮に至りそうだった。


『…シンドバッドさん……』


もう何を信じていいのかわからない。

紅玉のことも、今までの過ちも、シエルがこちらに来る前ならば知らないのは当然である。
しかし、その足を踏み入れることのできない記憶こそが最大の壁。



「お前たち………」



だがシンドバッドもシンドバッドで何が何だかわからない。
自分はやっていない、その確証があるからこその困惑がある。
何を映しているのかも、泣いているのかもわからないシエルの表情に一刻も早くこの事態を収拾したいと思った矢先この仕打ち。



「俺たちの信頼関係はウソだったのかよ…!?」

「「「酔っぱらいの言うことをいちいち信じてられるか!!」」」



泣きそうなのはこっちだと言わんばかりにシンドバッドが放った言葉にヤムライハ、ジャーファル、シャルルカンからの鋭い言葉のメスが突き刺さる。
はずみでヤムライハの元から解放されたシエルはふらりとその場から距離をとった。

何の会話を聞いていても右から左に抜けて行きそうで目に見える4、5歩程の距離だったが心を落ち着けるのには十分。
シンドバッドと紅玉の政略結婚が話に上がる中シエルはぎゅっと拳を作った右腕を見やる。
信じたいけど、何を信じていいのやら。



「大丈夫ですか?」



そんなシエルの震える右手を取ったのは



『あ、…え…白龍様…?』

「貴殿に…一目お会いしたかった」



紛れもない煌帝国の皇子であった。







革命の贖罪

(交わる瞳に映るは)

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