※手ブロネタ













数日前、王宮で盛大に行われた式。
男女が結ばれる幸福の式は参加した者全てにまで幸せを与えてくれる。


「綺麗だったわよね〜」
『はい!』


久々に共にお茶を楽しんでいたヤムライハも同じことを思ったのか共観の息をつく。
幸せそうに笑う夫婦はとてもかがやいて輝いて見えた。
思い出しただけで胸の中がほっこりとした気持ちになる。
きっとああして祝福された二人は末永く幸せに続く事だろう。


『女の夢って感じです!』
「ね!」

『…結婚かぁ………』


自分が誰かと結婚をしている姿が全然思いつかない。
だからこそ誰かに己を重ねてみてしまう訳だが。


「あら、シエルちゃんなら周りにいっぱいイイヒトいるじゃない」
『え?』


誰かいたっけ、と身の回りを顧みてみたが全く思いつかず首を傾げる。
思い人はいようとも伝えることはしないと決めてしまった為思考範囲からは却下。

だがしかし、ヤムライハは思い出すように指折りで数えていった。


「王にマスルールにアリババくんに不服だけど剣術バカにジャーファルさん…あ、ジャーファルさんは恋愛感情はないか」
『………え?』
「まず剣術バカはおすすめしないわ。するなら王かマスルールかアリババくんにしなさいね」
『ちょ、ちょちょっと待ってください状況が掴めないんですが』
「え?シエルちゃんの事好きな人でしょ?」

『…………はいぃいぃいぃい!??!?』


ガターンと思いっきり机に両手を叩きつけながら立ち上がったシエルの顔は真っ赤だ。

―ないないないありえない。

そんな馬鹿な筈がない。
なぜならその話の内容だったらシエルは思い人と知る筈もなかった気持ちの疎通をしてしまっているということだ。


『私は今何も聞かなかったことにします』
「?どうして?」
『聞いてはいけないことを聞いてしまった気がするので』

「………あぁ。そういうこと」


ヤムライハは今しがた自分の言った言動を顧みてポンと手を叩く。
あんなに見ててバレバレなのだが互いに気付いていないところがもどかしい所。

言ってしまったのはそのせいかもしれない。
しかしヤムライハ的にはシンドバッドには悪いことをしたとは思わなかった。


「じゃあ今のは聞かなかったことにしていいわ」
『……はい』

「そうそう、シエルちゃんにいいものがあるんだけど…」
『?』
「ちょっと待ってね」


話を切り替えるようにヤムライハが自分の衣服類の入っている棚を弄り出す。
なにが出てくるのだろうと様子を見守っていると、案外早くにお目当ての者は見つかったようだ。
さすがに几帳面というか、ピスティとは違う。

あったあった!とヤムライハがシエルに差し出したもの。


『あ……』


差し出したそれには見覚えがあった。


『それって…結婚式に使ってた…』
「えぇ。花嫁のヴェール」


赤い色のヴェールは花嫁の証。
纏う姿を美しいと思ったのは記憶に新しい。

なんで持ってるんですかと聞けば貰ったのとあっさりとした答えが返ってくる。
はい、と手渡されて扱いに気を付けながらヴェールを受け取った。
手触りのいいそれはやはりそれなりに高価なものなのだろう。

「被ってみてもいいわよ?」
『え…?いいんですか?』
「そのために貰ってきたんだし、勿論いいわよ」


シエルがそっとヴェールを翳し、自分の頭にそれを被せる。
柔らかい布の感覚はふわりとしたものであまり重みは感じない。

『わ……』

ただそれだけの事なのに自分が違う人になったように思える。


「いつかシエルちゃんがそれを式で使う日が来るかもしれないわね」
『…来るでしょうか』

「大丈夫よ、シエルちゃん綺麗だもの」


相手はどうなるかしらね、とヤムライハな思ったが本人の前では言わなかった。
シエルは周りの者には恵まれている。
きっとふさわしい相手を見つけることだろう。

でも、変な輩にシエルは渡せないなとヤムライハは心に誓っていた。



「ヤムライハ、ちょっといいか」
「あ、王ですか?どうぞ」


『え!?あ、シンドバッドさ…!?』
「ん?」



不意にドアがノックされ声の主を把握し許可を出した時。
思わぬタイミングでのシンドバッドの声に動揺してしまったシエルがわたわたともた付き始めた。

そしてガチャリとシンドバッドがヤムライハの部屋のドアを開けたのと、ズルッとシエルが長いヴェールの裾を踏んで滑ったのはほぼ同時だった。



「「『え』」」


ゴンッ


「シエル!?」
「シエルちゃん!?」



見事なまでに美しく床に頭を強打したシエルに慌てて駆け寄ったが完全に意思はなく。
今何してたんだとヤムライハに問うたシンドバッドに事情を説明し、しばらくして意識を取り戻したシエルが今まで何をしていたか覚えてなかったが、あえてシエルには何をしていたかは教えないことにした。

先程うっかりシエルに言ってしまったが、やはりヤムライハには互いの気持ちを知らないでいて欲しかった。
さぁ、この赤いヴェールがもう一度シエルを包む日は来るのだろうか。
訪れて欲しいと願う未来は訪れるのだろうか。








今はまだ、言わない

(…なんだか変に忘れてることがある気がするんですけど…)
(気のせいよシエルちゃん)

(それよりも、ぶつけたところは大丈夫なのか?)
(だ、大丈夫です)

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