ファミリーネームなんて生まれた時からあってないようなものだった。
それ以前に家族と呼べる人はいなかった…筈。
意識があった時からまともに親と呼べるような人に私は会ったことがない。

来る日も来る日も襲い掛かる暴力。
汚い大人たち、力任せに私を殴るのは親なのかそうでないのかもわからない。
ただ、私の生きるこの世界が怖かった。

怖い、怖い。

震え、怯えることが体に染み付いてしまった浅ましい自分。
もう生きることに疲れたの。

きっと私が死んでも誰も悲しまないでしょう?
それなら私は"死"を選んでもいい。
そう思って傷だらけの自分の体は地面に倒れこんだ。
目が覚めたら…私はまたあの現実と向き合わなければいけないのだろうか。






―シンドリア

"七海の覇王"とも称されるシンドバッドの収める国。
アラジン・アリババ・モルジアナの3人は現在この王宮の食客としてシンドリアに身を置いていた。
いつものような日常を過ごしていたある日に、アラジンは不思議なざわめきと共に目を覚ます。


「(ルフが……騒いでる…?)」

いつもと同じように見えるルフが、アラジンには違って見えた。
どこか騒がしいような、どこか楽しそうな、どこか騒がしそうな、形容しがたい気持ちが流れ込む。

これがいい予感なのか嫌な予感なのか、アラジンにはわからない。


「おっすアラジン起きたか。お前突然昼寝し始めるから驚いたぜ」

「あ!アリババくん、モルさん、おはよう!」
「…おはようございます」
「いやいやおはようって時間じゃねーだろ」


太陽の上る日中に気持ち良く昼寝をしていたアラジンが目を覚ました時、空は既に暗くなっていた。
真っ黒のキャンバスに白くて丸い月をはめ込んだような空。
怪しく月光の差し込む夜に、アラジンは胸騒ぎを抱えながらもベットから飛び起き2人の元へと。
アラジンは何の意味もなく昼から惰眠を貪っていた訳ではない。

とある導きの元、彼は空を見上げた。


「ねぇ2人とも、ちょっと悪いんだけれども今から一緒におじさんの所に行かないかい?」
「シンドバッドさんの所に?そりゃ構わねーけど…またどうして?」


ただわかることは1つ。


「なんだかね、今日は何かが起きる気がするんだ」


今日、きっと重大な何かが起きるのだろうということ。







アラジンの様子に顔を見合わせて首を傾げるアリババとモルジアナ。
断る理由もなかったので3人並んでシンドバッドのいるであろう王座を目指す。
いつもならただ歩くだけの石畳の廊下がなぜか長く感じられた。
胸が高鳴ったままなかなか収まらない。
何かが起こるまでこの高鳴りは冷めやらないだろう。


「あれ、3人共シンに何か御用ですか?」

「あ、ジャーファルさん!」
「マスルールさん…」
「そうなんだ。ちょっとおじさんに言いたいことがあって!」

「…シンに?」
「うん!」


丁度王座のに近づいて来た頃。
業務関係であろう、ジャーファルとマスルールが反対側から歩いてくる。
腕に抱えられた大量の書類と思われるものはきっとこの扉の先の王に届けられるのであろう。
…ただしその仕事を彼がするかと言われたらしないかもしれないが。


「なら行き先は同じですね」
「みたいっすね」

「シンが逃げてさえいなければここにいるはずですよ」
「「「……」」」


若干今のジャーファルの台詞にはいろいろな意味が込められていた。

なんとなく無言になった3人。
元より無口なマスルール。
変な沈黙が走ってしまったがジャーファルはそんな事慣れたと言わんばかりにスルーして歩を進める。
あの王に仕えるにはこれほどまでにならなければいけないのか、とアリババはジャーファルを尊敬したとか。


「シン、入りますよ」


先陣切って大きなドアをノックし、隣に立つマスルールに比べれば随分と細い腕がドアを押す。
それに続いて後ろから3人が着いて行きシンドバッドがいるかどうかからことは始まる。
大きなマスルールの体から顔を出し王座を覗き見る。


「珍しいですね。シンがまともにここにいるだなんて」
「…人聞きの悪いぞジャーファル。俺だって時には真面目なる」


いつもなら逃げ出そうとするところをジャーファルに止められたり仕事を全力で投げだしていたりしているシンドバッドだが、今日に限っては違う。
堂々と王座に座り、腕を組んで何かを思考しているようだ。
そしてマスルールの背後から見えたアラジンの姿にシンドバッドの表情は更に一転しガタリと王座から立ち上がった。

その様子にアラジンは確信を持ち前へと。



「アラジン…君も感じているか?」

「うん……ルフが騒いでる。…何か……来る」



アラジンがそう告げた途端だった。




「うわっ…!」
「な…っ!?」
「眩しっ!」




夜にも関わらず目も開けられない程の光は部屋を覆い、視界を遮られることを余儀なくされる。
ほんの数秒間、されど数秒間。
人の命を奪うのには十分な時間に精神を研ぎ澄ませ夜襲かとも思ったが襲い掛かるような人の気配は全くと言っていい程にない。

ゆっくりと視界を開いて行き、6人が目にしたもの。



「「「「「「!!!!」」」」」」



―傷だらけで倒れている1人の少女。

意識はないらしい。
長い銀色の髪が身を覆い、見たことのない服に身を包んでいる。



「ルフの光が………」



空に浮かぶ月の光を身に受け、やって来た少女の纏うルフは誰よりも輝く誰よりも美しいものだった。





ルフに導びかれし小夜曲

(全てはここから)

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