「魔法よ」
「剣術だ」
「…体術で」


『あの…もしもしヤムライハさん?シャルルカンさん?マスルールさん?』


シエルを中心にした3人の輪が静かに激しい火花を散らす。

あの事件の辺が冷めてから数日。
多々の怪我を負ってしまった原因は自分にあるとし、修業を再開しようとした今のシエルに1番に教えるべくは何か、なぜかその討論に至ってしまったのだ。
ヤムライハは魔法を、シャルルカンは剣術を、マスルールは体術を。
それぞれ八人将たる3人のトップレベルなそれまでを目指しているわけではないがなぜか教える標的はシエルに移っているらしい。

アラジンもアリババもモルジアナも、師匠達のこの口論には若干興味があるのだろう。
シエルが視線で助けを求めるにも、笑いながら見守るだけだった。


「だいたい剣術ってなによ。シエルちゃん剣なんか握ったことないでしょ」

「決闘事は1対1の剣って決まってんだろーが。つか体術ってシエルちゃんそんなお前みたいにムキムキじゃねーだろ」

「…何も武器がなければ素手が1番大事じゃ?魔法にも魔力切れも想定できます」


お互いに一歩も譲らない。
保身と攻めを同時に行い牽制するも全員全く飲み込む気はないだろう。
シエルの意見は聞く気がないらしい。

だが当の本人も何を学べばいいのかわからない現状。
3人に囲まれ、それを外で傍観するその弟子3人。


「人気者だなシエルも」
「エルさんは色んな人に愛される才能があるんだよ」
「…そうですね」

「ま、本人は混乱してるけどな」


シエルには悪いが、なんとも微笑ましいとして弟子3人は様子を眺めていた。


「「シエルちゃん!」」
「シエル」

『はいっ!?』

「魔法よね!?」
「剣術だろ!?」
「……体術」



「「さぁどれ!?」」



マスルールだけは最後の催促はしなかった。
だが3人気迫を漂わせながらズイッとシエルに詰め寄る姿はなかなか迫真のものだ。


『えっ…と』


何を言っても正解であり誤答な気がしてならない。
かといってこの場を乗り切る術は残念ながらシエルには思い付かなかった。



「あなた方、仕事ほっぽり出してなにしてるんですか」


「げ」
「ジャ…」

『ジャーファルさん…!』



天の助けと言わんばかりにシエルは現れたジャーファルに目で訴えた。
目の下のクマ、腕には資料と思われるものを抱えたジャーファルのお言葉はかなり効果があるらしくサッとヤムライハとシャルルカンは顔を青くして、マスルールは何食わぬ顔で失礼しますとその場を去っていく。
ジャーファルさんすげぇ。思ったのはアリババだけではないだろう。


『…ありがとうございます……』
「私は本当のことを言ったまでですよ」

『でも助かりました…あ、お仕事手伝います』


えい、と少々強引にジャーファルの腕から資料を奪う。
こうでもしないとジャーファルは持たせてくれないということをシエルはしっかりと学習していた。


「助かります」
『いえ』

「それとシエル」
『?なんですか?』


まだ何か言うことがあったか、と思い首を傾げたシエルに、ジャーファルは悪戯にくすりと笑った。



「さっきの討論の選択肢に、私も加えておいて下さいね」



この後、話を聞き付けたシンドバッドがじゃあジンの扱いは俺が教えるぞ!と言い出し結局シエルの答えのない問答は続くのだった。
今日もシンドリアは平和です。








しあわせってかわってるね

(やっぱりエルさんは愛されてるね)
(あぁ)
(それが1番シエルさんらしいです)
(そうだねモルさん)

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後に

魔法→ヤムライハ
剣術→シャルルカン
体術→マスルール
短剣(ナイフ等)→ジャーファル
ジン・魔装→シンドバッド

全て教わるハメになりました。
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