「いい?まずはイメージが大事よ。人によって得意な魔法の属性は違うし、命令を下すだけでは駄目!ルフ達を使役するの」

『はい!』


王宮の広い庭で行われているその様子を、遠巻きの廊下から見守る人影が2人。


「…シエルがヤムライハに魔法を教えて欲しいと言ったそうです」
「……そうか」

「ですが…あの様子ではコツを掴むのにそう時間はかからないでしょうね…」
「だな。シエルの存在はまだ公ではない。が、いつどこの輩が嗅ぎ付けて来るかもわからん。…俺が護りきるのにも限界があるだろう」「おや、珍しいですね。王たる貴方が護りきる自信がないとは」


書類を抱えたままのジャーファルが一歩斜め前に立つシンドバッドに語る。
今まで何に対しても自信に溢れ、不可能を可能にしてきたシンドバッド王が、と。

シンドバッドはしばし沈黙した。

必然的にジャーファルも無言になり、廊下に風が駆け抜けた。
神官服が、シンドバッドの長い髪が、風に靡いて宙に揺れる。



「王として…よりかは1人の男として…だな」

「!」



王としてその身を捧げてきたシンドバッドが、と。ジャーファルは何とも複雑な…それでいても表情に浮かべることなくそうですか、と言葉を返した。
元暗殺者である自分は感情を殺すことは常識だった。
シンドバッドがどれだけ過酷な道を辿ってきたかは知っている。
その過程で彼が何を思い、今ここに立っているのかも。

それ故に心配だったのだ。
思いをを知った上で、シンドバッドは王としてではなく、1人の人間としての感情を殺しきれるのかと。
ジャーファルはヤムライハにしごかれつつも弱音を吐かない彼女を見ながら思うのだった。


「なら、私からも暗器の使い方も教えておきましょう。彼女の身なりに大きな武器は不釣り合いでしょうから」
「あぁ。頼んだぞジャーファル」

「はい」


なら臣下である自分ができることはただ一つ。
彼の憂いを取り払い、何の気兼ねもなく前を見据えて貰うことだ。

それは臣下としての努め。
でもそれ以上に、##NME1##を守りたいという気持ちがどこかにあったのかもしれない。
自分らしくもないとジャーファルは思いながらもそんな自分でいいとすら最近思えてしまうようになった。
これもシエルの力なのか。シンドバッドがシエルに向けるような気持ではなく形容するなら親心のようなそんな気持ち。

人一人の心を動かすには十分なシエルの心に、ジャーファルは思わず笑みを漏らした。





微かに芽生えた親心

(なぜか放って置けないのは)
(きっとこの2人が似た者同士だからでしょうね)

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