ベッドに転がって、右腕を天井に掲げてみる。
きらりと光るブレスレット。
シンドバッドから貰った、誰かから貰う生まれて初めてのプレゼント。
先日のことを思い出してまた少し笑みが漏れた。
誰かから何かを貰うということが、どうしようもなく嬉しかったのだ。
何かを与えたこともなく与えたこともない。
そんな自分が何かを貰うことはおこがましい事なのではないか、とも思ったが彼らはそれをよしとしてくれた。
もっと何かを欲しがってもいいんだと言われているようで、思い出して泣きそうになった。
掲げていた右腕を目元に落とし、目元を拭う。
与えられるだけは、凄く心苦しい。
今までそんなこと思ったこともなかったのに。
与えられたからこその苦しみ。
何もできない自分が、もどかしくて仕方ない。
『私に…何ができるんだろう』
何もしないだなんて、自分で自分を許さない。
かといって何をしたらいいかがわからないまま。
シエルの意識は夢へと落ちて行った。
私はここに来たことがある。
真っ白い何もない空間。
上も下も、右も左もわからない空間だけど決して恐怖は感じなかった。
こっちの世界に来る時、"彼女"は私をここに連れて来たのだから。
『ウリエル?』
「そうだ。どうやら私のことは聞いたようだな」
『…はい』
私の呼びかけに応じ、降り立った彼女を改めて凝視する。
綺麗、というのが第一印象だったけれど強い眼光から彼女の強さを感じた。
私と違ってウリエルは強いんだって一目でわかる。
ウリエルの主人に私は成り得るの?
疑問、不安。渦巻く気持ちは沢山ある。
ブレスレットのついた右腕をぎゅっと握ってウリエルと目を合わせた。
「なにやら勘違いをしているようだが、私はお前に主人の資格はあるとは言ったが認めたわけではない」
『え?』
「お前が本当に力を求め、覚悟を決めた時。私はお前の主人になろう」
『力……?』
「あぁ。誰かを助け、守る為の強さだ」
『!』
私と似た、銀色の長い髪が揺れた。
少し長い前髪から覗く真っ赤な瞳が突き刺さる。
力が、欲しい。
恩義に報いるためにも、彼らを守るためにも。
与えられたものを返すため。
そして何より、与えられてばかりの情けない自分を変えるためにも。
口に出そうとした言葉はウリエルの手によって塞がれた。
人差し指が私の口に押し付けられ、言葉を発することを拒むように。
「迷宮攻略をするにはまだ早い」
『!な…』
「"なんで?"か?お前の心にはまだ迷いがあるようだからだ」
全てはお見通しと言わんばかりの言い回し。
この空間にいる間は心が勝手に読まれてしまうのだろうか。
私の心にある"迷い"…って…なに?
思っても、言ってみても、彼女は答えてくれないのだろう。
それを見つけることが試練の一つだって、言われるような気がして。
「次の夢で待っている」
スッと唇から離れた白く細い指。
離れていく体。
浮上する意識。
なんでかな、言われたのはキツい言葉だったのに、彼女の視線はずっと私を優しく包んでいるような気がした。
愛より尊く愛より儚く
(誰よりも愛されるべく主へ)
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