泉の畔に大勢の人、人。
シエルがこの場所を知っていて、よく来るということを知っているのはシエル自身とシンドバッドだけだった筈。


『どうしてここが…?』


シンドバッドが連れてきた、と言ってしまえばそれまでなのだがそれにしても人が多い。
自分の腕を指差したシンドバッドに、シエルも自分の金属器を見てみれば確かにそれは鈍く光っていた。

そしてそこから光が伸びていて、まるでシエルと皆を繋げているような。


「突然ジンや眷属器が光り出してな」
「教えてくれたよ、エルさんの居場所を」


役目は終えたと言わんばかりにフッと光が消えた。
ジンの金属器には解明できないようなことが多いとは言ったものの、こうしてその謎が増えていくのだろうか。
まだまだ奥が深いものだ、思ったがきっと解明などしきれはしないのだろう。
それを追うのがヤムライハの言う魔法のロマンに繋がるのだろうが、今は分からなくていい。


「そういや俺も市場からそれ辿って来たんだ」

『…ジンの力なのかな』
「これもルフの導きかもね」


大丈夫?とヤムライハに頬を撫でられる。
まだピリッと痛みの走る頬に少し体が強張った。
いつもと変わらない優しさが、今は胸に染みてくる気がする。

やって来た中でも一際小さいアラジンがシエルの前に立ち、一際群を抜くシンドバッドがシエルに手を伸ばした。


「シエルもアリババくんと一緒さ」
『え?』

「そうして、何度も前を見て進もうとする君だから…僕らは何度でも手を伸ばそうとするんだよ」
『アラジンくん…』



「…俺たちは信じているよ。シエルも、シエルの決意も全部」



ルフの光が指し示し、繋がっている絆を導き、愛されている喜びを実感した。

眩しくて前が見えなくても、こうして手を差し伸べてくれる人がいる。
待っていてくれる人がいる。
自分を信じてくれている人がいる。
自分の…幸福を祈ってくれる人がいる。

思わずまた零れそうになった涙を寸前で瞳に留めて、差しのべられた手を取った。
手を引かれてよろけながらも立ち上がるとシンドバッドとまっすぐに視線が交わる。


「…どうやら、吹っ切れたようだな」
『…はい』


虚ろだった瞳はしっかりと光を帯びていた。
ジャーファルも、マスルールも、シャルルカンも、モルジアナも、その場にいる誰もが安堵の表情で見守っていた。




『たしかに、こっちの世界は私がいた世界よりはるかに亡くなってる人は多いかもしれませんし、そのせいで私の考えは人一倍綺麗事で偽善者的な考えなのかもしれません』
「…」




文字通り、今まで生きてきた世界が違うのだ。
悲しくともそれが現実であり、差異が起こるのは当たり前。

受け入れるか否かは本人次第とはいえ、シエルは決めた。





『でもやっぱり…死を当たり前にしちゃいけないと思うんです』
「…そうだな」






『だから私にも…そんな国を作るお手伝い、させてください』






願わくば、貴方の隣で



「あぁ、勿論さ!」



泉に映るたくさんの人。
全ての人物に笑顔が浮かび上がり、そこに訪れていたのは間違いなく"幸福"だった。

―本当の幸せってなんなのか、それはわからない。
―でも、今この瞬間だけは確実に幸せである、と私は胸を張って言える。

だからあなたの隣に胸を張って立てる人になろう。
それが幸せなんだって、今なら言える気がするから。
亡くしたものは戻ってこない。
だから絶対に忘れない、忘れてはならない。


幸せを探すために
私はこの世界で、前を向いて、貴方の手を取ります。







愛しこよなし我がこの世界


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