「エルさんエルさん」
『どうしたのアラジンくん』


アラジンを膝の上に乗せ、シエルは呼ばれるあだ名に慣れない思いをしながら返事をする。
アラジンは男だが、子供なら恐怖心は抱かないらしいシエルに存分に甘え倒すアラジン。
つまりは「子供>男」と認識されている訳だがアラジン的にはそれで充分らしい。
一部それを羨ましがるものもいたがまさかそれが言える筈もなく。
シエルの膝の上はアラジンの独壇場になっていた。


「エルさんはモルさんよりおねいさんなんだよね?」
『うん。モルちゃんは14歳らしいから、私の方がちょっと上かな』

「じゃあエルさんは何歳なんだい?」


言われて気付く。そういえば、歳はまだ言ってなかったかと失念。
一応言ってなかったっけと聞いたら聞いてないなと答えたのは傍にいたアリババだった。
会話には入ってこなかったもののモルジアナも気になっているのかじっとシエルを見つめている。
複数の人に見られるのは慣れず、体を固くしたシエルだったが深呼吸を一つして落ち着くことを覚えたので気持ちは幾分楽だった。
それに昔に比べた恐怖心は全く感じない。


『私は今17歳だから、モルちゃんよりも3つ上だよ』

「「「え」」」
『え?』
「う、嘘だろ俺と同い年?!」
『え、じゃあアリババさんって17歳なんですか!?』

「…お2人とも知らなかったんですか?」


モルジアナの問いに無言で頷く2人。
アリババ的にはもっと年下だと、シエル的にはもっと年上だと思っていたらしい。


「確かにシエルは歳より幼く見えるな」
「ですよね………ってシンドバッドさん!?」

「あれおじさんお仕ご「いやーそれにしてもシエルがアリババくんと同い年とは!」
「(…逃げ出してきたな…)」


どこからともなく現れたシンドバッドに膝の上のアラジンを落としかねない驚きをみせるシエル。
確実に仕事を放棄してきたことを隠したつもりなのだろうか、バレバレな話ぶりにアリババはジャーファルの苦労を感じた。
もう知らね、俺は何にも気付かなかった。
言い聞かせて会話に参加することにする。


『シンドバッド様、失礼ですがおいくつなんですか?』
「俺か?俺は29だ」
『29っ!?』


見えません…と小さな声で呟いてシンドバッドを見つめた。
その行動的な性格に相まって若く見えるのだろうか。
無邪気にアラジンと笑顔を交わすシンドバッドに体温が上がるのかわかる。


「シエル、顔赤いぜ?」
『へ?な、なんでもないです大丈夫です!』

「ならいいんだけど、つか同い年ならタメでいいって!年うんぬん以前に俺敬語使われんのって嫌だからさ」


予想外な所から切り込まれたアリババの申し出に目をぱちくりと瞬きさせる。
同い年、タメ、言われた事がなかった。
まず友達と呼べる友達もいなかったし、まともな人と関わることもできなかったシエルに差し込む笑顔の光。


『アリババ……くん?』

「うーん…まだ固いな。ま、最初のうちはそれでいいか」
「なんだアリババくん抜け駆けか?」
「え!?いやそんなつもりは…」

「じゃあ次は俺の番だな。シエル」

『……えっと…?』


アリババを呼ぶだけてもそれなりの勇気がいたというのに、シンドバッドは次だと難題を突き付ける。
この流れだと、シンドバッドは自分を呼ばせるまでここをテコでも動かないだろう。


『で、でも…シンドバッド様は王様ですし…』
「本人が良いと言っているんだ。それにジャーファル達は普通に呼んでいるだろう」
「アラジンなんかおじさん扱いだぜ?」
「ねー!」
「おじさん言うな!」
『モ、モルちゃん…!』
「…いいんじゃないですか?」
『…!』


逃げ道は全て塞がれた。

まさかこんな事になるとはと思ったがそう言われれば3人ともシンドバッドには様なんか付けちゃいない事に気付く。
先にそれに気付いていたらどうという訳ではないのだがせめてもう少し違う言い訳でも考えられたかもしれない。
ニコニコと待ち構えるシンドバッド。
暖かく見守る3人に、シエルは耐え切れなくなって顔を真っ赤にして彼等の望む名を口にした。


『…シンドバッド…さん』


"さん"の声量は聞こえるギリギリぐらいであったが、それは確かに4人の耳に届いた。
それに満足げに頷いたシンドバッドが赤く俯いたシエルの頭にそっと手を置く。


「一歩前進、だな。どうせならジャーファル達みたいにシンでもよかったものの」
『そっ!それは流石に……』


ハードルが高過ぎる。
ただでさえ誰かを呼ぶのもいっぱいいっぱいなのに一国の王様を呼び捨てだなんて。
触れられている頭から熱が伝わりそうだ。


『すっ、すみません!私ヤムライハさんと約束があるんで!』


逃げるように膝の上のアラジンを降ろし、慌てて部屋を出て行った。
嘘は付いていないが、なんだか罪悪感より恥ずかしさが勝ってしまい、熱は冷めやらぬままにヤムライハの元へ。




「あら、遅かったわね」
『す、いません』

「別に怒ってないから大丈夫よ。何してたの?」
『それが、そのシンドバッドさんが…』
「…"さん"?」
『あ…っ』


うっかり、と言わんばかりに声が漏れてしまった。
瞬間ガシッと両肩をヤムライハにホールドされ、何があったの!?変なことされてない!?とシエルを問い詰めるヤムライハを落ち着かせるのはそれはそれは大変だったとか。




距離の縮まる遊興の歌

(王…シエルちゃんの純潔を汚したら許しませんよ)
(なんの話だヤムライハ)

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