デジャヴを感じる、暖かい体温。

―どうして、セシルさんが?



『なんで…』



セシルはシエルを殺しに来ていた筈だ。
庇う理由なんてない、むしろこのまま殺されるところを傍観しているのが得策だった筈。


「ジュダル…!お前が絡んでいたのか…!!」
「おーっと、誤解すんなよバカ殿。俺は暗殺の件には絡んじゃいねーぜ?」

「貴方の言葉を信じるとでも?」
「信じるさ。シエルが証言者だからな」


セシルの体がシエルに倒れ込み、それを受け止めながらその場に座り込む。


『セシル…さん…』


荒い呼吸を繰り返すセシル。
依然としてその背には氷柱が突き刺さったままだった。

体を支えようとした手に生暖かい血液が付着する。


「ならば今のこの状況はどう説明する気だ?」
「なんのことはねぇよ。セシルがシエルを庇った。それだけのことさ」

「セシルと貴方の関係は」
「シエルにでも聞きな。シエルなら全部知ってるぜ」
「質問に答えろジュダル」


全然外の声が聞こえてこない。


「大丈夫か?」


ジュダルに向き合うシンドバッドとジャーファルを確認し、マスルールがシエルに近付く。
シエルは呆然とセシルを抱き留めたまま動かない。
マスルールの言葉も耳に入っているかはわからない。

今のシエルはふつふつと沸き上がる怒りに支配されつつあった。
ただそれが度を越して冷静になってしまっただけ。

―まだ息はある

ひたり、とセシルの背に突き刺さる氷柱に手を当て、魔力を込めた。
徐々に溶けていく氷。
それは氷柱に触れたシエルが手を加えたと考えるのが普通だろう。
ジュダルはシンドバッド達との会話をよそにシエルの行動に目を見開き、ニヤリと笑った。


「へぇ…魔力操作なんてモンまでできんのかよ。ますますおもしれぇ」


まるで獲物を見つけた肉食動物のように舌なめずりをするジュダル。
だが騒ぎはこれだけでは済まないようで、天はこの場に使いをやった。


「エルさん!!おじさん!」


騒ぎを聞き付けたアラジン、アリババ、モルジアナまでもがシエルの部屋に集結し、事態は大きくなって行く。
3人が部屋に現れようともジュダルは動じない。
むしろ動じることを強いられたのは3人の方だった。


「ようチビ」
「ジュダル…!?」


いる筈のない人物の登場。シエルの腕の中で血を流して倒れるセシル。
状況から考えたら確実にジュダルが暗殺者だと考えるだろう。
その考えは誤りであり誤りではない。
近からず遠からず、だが説明なしに判断のつかない今アラジン達は武器を構えるだけだった。


「やる気のとこワリーけど今お前らに興味はねぇよ」
「なんだと…!?」

「俺はシエルに用があんだ」


ジュダルがここにいる理由がシエルなのは確かだ。
このままではシエルが危ない。
シンドバッドは警戒を怠らずシエルの元に近付く。
シエルな依然として言葉を発しない。
呼びかけにも応じず、ただセシルを腕に抱えたまま。


「シエル……?………!!」









ー武器化魔装










「全員伏せろ!」

ドンッ




シンドバッドの上げた声をかき消すような轟音が耳を劈き、眩しさに目を瞑る。

見たこともない程煌々と大きく光る弓が寸分の狂いもなくジュダル目掛けて放たれた。
部屋の半分を消し飛ばした光の矢。
それは今までに見たことのない威力でありその破壊力は恐ろしいものだった。


『………』


真っ赤に染まったのは彼女の瞳か、彼女の手か。





放て憎悪と悲しみの矢を

(死というものから逃げられはしない)

_


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -