消毒薬独特の臭いが鼻を刺す。
部屋にはセシルとシエル、それとシンドバッドを始めとするその臣下達だった。
セシルの腕に包帯を巻きながらシエルはその痛々しい傷を目の当たりにし、沈んでいた気持ちは更に沈んでいく。


『…ごめんなさい……』
「謝らないでシエルちゃん」

「とにかく、無事でよかった。」
「勿体ないお言葉です」
『……』


丁寧にセシルの白い腕に包帯を巻き付ける。
セシルにはとても目立つ傷。
それはとても痛々しく感じてシエルもズキリと胸を痛める。

出来過ぎた力は争いしか産まない、そんな気がしてならない。
なによりも周りが傷付いていくのは堪えられなかった。
誰も巻き込みたくない、思っていたのにこうして傷付いたものがいるという事実。


「相手はどんな格好をしていましたか?」
「黒い…全身黒い衣服を纏っておりました。一瞬しか見えなかったのですが…武器は剣だったと…」

「…同一犯…と考えて間違いないでしょうか…」
「俺が見たヤツとも一致してますね」
「…こうも簡単に王宮内へ侵入を許すとは…考え難いな」


すでに王宮内存在を主張してしまった以上、どうにかしなければ他の人間の命に関わる。


「とにかく、しばらくシエルは部屋を出ないように」
『はい』
「…そう怯えた顔をするな。じきに捕まえてやるさ」
『……』


シエルの頭に手を置いてくしゃりと髪を乱す。
しかしシエルの表情は晴れぬまま。


「…そう簡単に不安は拭えないわよね」
『セシルさん…』


「…今はゆっくり体を休めるべきです。シエルもセシルも」
『ジャーファルさん、あの』
「なんですか?」


控えめなシエルの言葉にジャーファルが首を傾げた。
申し訳なさそうにする表情からは覇気は感じられず、ジャーファルもできるだけ優しく声を掛ける。


『お仕事…手伝えなくてすいません……』


こんな時でさえ他人の心配をするのか。
それがどうにもシエルらしく、しかし思わず目を見開いてしまった。
シエルちゃんは優しいのね、シンドバッドと同じように頭を撫でるセシル。

セシルが心配なのも、仕事を手伝えないのも、すべては本心なのだ。
招いた不祥事に自分で決着がつけられないどうしようもない子供な自分。


ゆっくり休めよ、と部屋に一人になった時。
シエルは自分の手に握っていたとある1枚の紙を手に取った。
これはセシルの惨事を目撃して最初に部屋に戻ってきた時に見つけたものだ。

部屋の床にわかりやすく置かれていた1枚の紙。
そこに書かれていた内容ですべてを把握したシエルはその紙を手の内に隠したのだった。




『…今夜……か…』





"今夜貴方の命をいただく"



簡潔にそうかかれた内容に疑いようはないのだから。

全てが決まるは今夜。
闇に堕ちるか、光に生きるか。
渦巻く陰謀は善か悪か。







塞ぐ世界は無音

(孤独で紡ぐ世界は虚無)

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