黒い闇に浮かぶ2対の瞳は互いの姿をまっすぐに映し出していた。
殺気に近いものを放ちながらシエル…否、ウリエルはジュダルと一定の距離を保っていた。


「いつかの夢ン中ぶりじゃねーの。会いたかったぜ?」

『私は会いたくなかった。まさかこちらまで貴様が来るとはな』
「んだよツレねーな」


ジュダルは口を尖らせ腕を頭の後ろで組んだ。
ふて腐れるような態度はまるで子供の様で。
だがウリエルの放つ殺気は増すばかり。
見かけはシエルな分、その殺気にアンバランスさを感じる。


「で、シエルは?」
『引っ込ませた。貴様のようなケツの青いガキには主はやらん』
「そんなガキの手を取りかけたのはテメーの主だろ」


『…貴様…主を堕とす気か』


核心を突く言葉にすらジュダルは笑う。
より一層濃くなった笑みに不快感すら感じたが彼という人間性を知る分、幾分とマシだった。



「あぁそうだ」



あっさりと肯定したジュダル。
キッと赤い瞳を釣り上げたウリエル。
意識を完全にシャットアウトされているシエル本人は知らないが、彼女の持っているこのウリエルという力は人を魅了するものだ。
そしてジュダルもその一人である。

ジュダルが魅入られたのは力か、シエル自身か。
それがどちらであろうと主を渡す訳にはいかないのがウリエルの役目。



「いずれシエルをこっちに堕とす」
『…私がさせるとでも?』
「させるさ。この俺を本気にさせたんだからな」

『……それはあのシンドバッドへの宛てつけか』
「それもあるけど、なにより俺がシエルを気に入ったからだ」



笑顔をそのままにびしりとシエルの体を指を指す。
珍しく素直に言い切ったな、とウリエルは思ったがかといってその内容は決していいものではない。



『この状況でよくそんなことが言えたものだ』

「言うさ。いずれお前も屈服させてみせる」

『やれるものなら』









「シエル?まだ起きているか?」




ドン、と叩かれたドアと共に聞こえてきたシンドバッドの声。
至って冷静に2人はそちらに視線を送った後顔を見合わせてジュダルは笑いウリエルはそのジュダルを睨みつけた。
シンドバッドは起きている気配を感じ取っているのかもう一度ドアを控えめに叩く。

そろそろ潮時であろう。



『…さっさと立ち去るがいい』
「あぁそうさせてもらうぜ。また会おうぜウリエル」



ジュダルが出て行ったのと、シンドバッドがドアを開けたのと、シエルの意識が急浮上したのは同時であった。



「シエル?」
『…シンドバッド、さん』

「どうかしたのか?声が聞こえた気がしたんだが…」



わからない、と言いたかったが、不確定事項の事をシンドバッドに言うのは気が引けてしまう。
ただでさえ背負っているものは人よりも膨大だというのに、自分1人の事に気を使わせたくない。

でも胸にこみ上げる空白の不安。



『………なんでもないです…』

「!」


どうしようもないこの気持ちをどうすればいいのか。


『…なんでも…、』


その答えも分からぬまま思わずシエルはシンドバッドの胸に飛び込む。
止まらない震えにシンドバッドはその小さな体を腕に抱き込むしか術はなかった。








似合いの赤に沈め

(心は赤く染まったまま)

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