またやってしまった、と頭を抑え意識の浮上した夜中。
こんなんだから迷惑かけるんだよと頭の中でわかっていても私は三大欲求、睡眠欲には勝てなかったらしい。
泣き疲れて寝るだなんて本当に子供の様だ。
あの後はそっとしておいてくれたのだろう、ベッドに綺麗に寝かされていた。
多分、セシルさん…だよね。
『(明日お礼言わなきゃ…)』
とりあえずシーツを畳みベッドに腰掛けた。
頭の整理はまだつかない。
ふぅ、と息をついてまた思いふける。
夜風にでも当たりに行きたいけど一人で外には出れないから窓からの風を感じていた。
「シエル」
『っ!?』
昨日の今日で大きく跳ねた肩、ビックリして振り向いて今度は安堵の息をついた。
『…ジュダル、さん』
「なんだシエル、今日はやけにピリピリしてんじゃねーの。王宮もやったら警備いるしよ」
顔色を変える様子もなく外を指差すジュダルさん。
どうやら私のことのあの事件は知らない、らしい。
一応、当事者である私からは話すべきではないのかもしれない。
何より、言うことでまた誰かを巻き込む事が怖かった。
目の前で簡単に、あっという間に散った命。
思い出したら寒気がして震えそうになる自分の体を抱いた。
「シエル?」
『………ジュダルさん、は』
「あ?」
『人の死を……見たことは、ありますか?』
ジュダルさんの顔は、見れなかった。
俯いたまま問い掛けた質問は確かに声に出した質問だ。
こんな質問をしてジュダルさんにどう思われるのか、何でこんな質問口に出しちゃったのか、後悔する私をよそに。
「数え切れねぇぐらいあるけど」
まるでおはようと挨拶をしてそれを返すかの様に、当たり前かの様に返ってきた答えに私は目を見開いた。
「そんな驚くことじゃねぇだろ」
「弱い奴が死ぬ。強い奴が生き残る。当たり前の摂理だ」
弱肉強食、まさにそれを示すかの様な獣じみた瞳が映る。
「まさかお前、人殺したことねぇの?」
『…はい』
「ふ〜ん……まぁジンの金属器持ちの奴がこれから戦わない道を選ぶってことはできねぇだろうけどな」
『……』
力を付けることは、してきた。
でも力が呼ぶ後の事を全く考えなかった私はなんて浅はかなんだろうか。
そうだ。この人たちは戦っているんだ。
自分を取り巻くありとあらゆるものから。
『私……私…どうしたらいいんですか…』
耳を塞いで、目を閉じて、全てから逃げ出したくなる。
ジュダルさんに泣きつきたくなって、でももう涙なんて誰かに見せたくない。
ぐちゃぐちゃになった思考に暗闇は降り注ぐ。
今すぐこのしがらみから解放されたい。
でもそんな甘ったれたことは許されない。
「……なら、堕ちるとこまで堕ちればいいんじゃねぇの?」
『…え………?』
「今すぐじゃなくてもいいぜ?俺はいつでもこっちで待っててやるよ」
あぁ、もうなんでだろうか。
私に手を差し伸べるジュダルさんの赤い瞳が、美しく見えたのは。
思わずその手を取ってしまえば楽になれるような、そんな気さえした。
―もう少しで手が届く。
でも、指先がジュダルさんの手に重なりかけた時、
私の意識は何かに引かれるように闇に消えた。
バチッ
「な…!?」
それはハッキリとした拒絶反応。
堕ちたと確信していたジュダルの手は弾かれ、勢い付いてシエルから距離をとる。
ジュダルに対峙するシエルの表情は見えない。
ただ、様子がおかしい。
「テメェ……シエルじゃねぇな」
『………』
直感的に感じとったジュダルは杖を構えたが、次の瞬間目を見開きそういう事かとニヤリと口元に笑みを浮かべた。
「へぇ…お前とは久々に話ができそうじゃねーの」
顔を上げたシエルの瞳は真っ赤な血の色。
「なぁウリエル?」
二人の赤い瞳が対峙し合う。
いつかではなく今を選んで
(未来はあるのか)
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