自分が普段やらないことをやってみるというのは発見の連続であり苦労の連続だ。
セシルに教えてもらった下女の仕事というのは今まで何気なくしてもらっていたことばかり。
楽しさ、面白さはあるもののゆえに苦労を知るのにそう時間はかからなかった。


『つかれた…』


午前中、仕事の仕方を教わって現在は午後。
シエルはぼーっと一人空を見上げながら中庭で一服していた。

まさか手伝いだけでもここまで覚えることがあるとは思わなかった。
同時に自分でもできることができると思うと嬉しさ余って笑みが零れる。


「よっシエル!」
『あ、アリババくん!』

「こんなとこでどうしたんだ?」
『あはは…ちょっと休憩かな』
「あー…そういや今度の使節団のって話か?」
『うん』


使節団、の言葉にアリババの表情が曇った。
なぜだかがわからなくてそれに一瞬疑問に感じたシエルだったがすぐにパッと表情が変わった為杞憂とすることにした。


「どうだ?結構忙しい感じなのか?」
『結構覚えること多くて…でもセシルさんいい人だし下女のお仕事、意外に楽しいんだ』
「セシルさんってあの黒髪の美人の人か!俺最初あの人下女だって聞いてビックリしたぜ」


やはりセシルの容姿は下女とはいえ有名らしい。
そのセシルにさっきまで仕事を教えてもらっていた事を話すとじゃあ今からは暇なのか?と切り返しが返ってくる。

確かにこの後は一応予定はない。
あえて言うならジャーファルとシンドバッドの手伝いにでも行こうと思っていたが決められた訳ではないので実質午後からはフリーだ。


「なら一緒に市場でも行かねぇ?」
『市場?』
「おう!息抜きがてらさ!」


市場、一度シンドバッドのお忍びに付き合って以来言った記憶はない。
1人で行くことは憚られたし、誰かと行く機会などなかったからであるがこういう機会が巡ってきたのは初めてと言っていい。
あの時は仕事を抜け出したというのもあって心のどこかに後ろめたさがあった。

でも現在、ウリエルが宿る媒介としてのブレスレットを貰ったのもあの日。


「じゃあ俺も連れてってもらうぜ〜」

『きゃぁ!』
「うお、しっ師匠!」
「抜け駆けなんて許さねぇからな」


思い出してくすぐったい気持ちになった瞬間、見たことのある褐色の腕が肩に回った。
アリババの言葉よりも前に頭で理解はしたが反射的に出てしまった声をかき消すことはできなかった。


『しゃ……シャルルカンさん』
「いやぁごめんね。ビックリした?」
『……えっと、叫んじゃってすいません』

「いい加減にしてくださいよ師匠…」
「お前が抜け駆けしようとすっからな。で、市場行くんだろ?」
「抜け駆けって…師匠と一緒にしないでください」
「ほほぉ…?言うなアリババ」


『い、行くなら早く行きましょう!夕方になるときっと混みますし!』


不穏な空気を感じ取ったシエルは慌てて2人の背中を押した。
そんな3人に近寄る人物が1人。


「あらシエルちゃん、お出かけかしら?」


彼女はシエル達の存在に気付くと駆け寄ってシエルに声をかける。


『セシルさん!ちょっと市場まで行ってきますね』
「そう。シャルルカン様たちもお気を付け下さい」
「あぁ」


シャルルカンに一礼したセシルが笑顔で顔を上げてシエルの頭を撫でた。


「いってらっしゃいシエルちゃん」
『いってきますセシルさん』


この日、市場に行くというこの行動が
1つの波乱を起こすとも知らずに。







運命転送先

(踏み外した道を辿るか)
(踏み外した道を歩くか)

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