『煌帝国の使節団が?』
「あぁ。近々訪れるらしい」
朝から珍しく呼び出されたかと思ったら、告げられたのは外交の事情であった。
そんなことまで自分が立ち入って良かったのか、と少し思ったが言ってもらえて嬉しかったという気持ちもある。
煌帝国の事はある程度の知識は得ているが実際に他国の交流に携わったことはなかった。
最近勢力を伸ばしてきた、ということで知識として覚えた記憶は新しい。
それに、詳しくは聞いていないが最近バルバッドと事件があったらしくその為の使節団らしい。
「大分こちらにも詳しくなったでしょう?少し手伝ってほしいことがあるんですよ」
『私にですか?』
「はい」
詳しくなった、とは言ってもここにいる期間は明らかに短いだろう。
そんな自分に手伝うことと言われても予想がつかない。
「そう身構えなくていい。ただ下女の手伝いをしてやって欲しいと思ってな」
『下女の?』
「えぇ。煌帝国の皇子が見えることになっているのですが皇子と言ってもまだ齢16の方なんです」
『……16!?わ、私よりも年下の方が皇子様…?』
「今のご時世そんなものさ」
「そこで年の近い貴方に手伝い願いたいんですよ」
ジャーファルのそこまでの説明を聞いてやっとシエルはなるほど、と手を打った。
確かにここの下女は年がいっている者が多い。
勿論あちらから連れてくるであろう従者もいるとは思うがこちらのかってがわからない以上は頼らざるを得なくなることがある。
そういう時に手を貸してほしいとのことだった。
『それなら喜んでお手伝いさせていただきます!』
「そう言って貰えると助かります」
下女の一任はこちらのセシルに任せてありますので、とジャーファルの奥に綺麗な女性が1人。
シエルも何度か顔を合わせたことがある。
こちらに来た当初はヤムライハ達に並びお世話になったものだ。
下女と言ってもセシルはとても美しい女性で、シエルも最初見た時はその美しい黒髪に目を奪われたものだ。
ニコリと笑った笑顔も美しく女である者すら目を奪われる。
そんなセシルが一歩シエルに歩み寄り、その美しい笑顔を向ける。
「簡単なお仕事の説明は私からをさせてもらうわ」
『お、お願いします!』
「ではセシル、シエルの事は任せたぞ」
「はい。仰せのままに、王よ」
顔前で掌を組んで一礼をしたセシルがじゃあ行きましょうか、とシエルと部屋を出た。
「じゃあお食事の事から身の回りのこと、まずは一通り説明するわね」
『はい!』
王宮内の下女の使う、いつもは足を踏み入れないところまでの案内から説明を。
ただの手伝いだがしっかりと仕事をしてもらう為らしい。
その志にプロ意識を感じる。
やっぱり一任者の思いは違うなぁと感心と尊敬の念を抱きつつ、シエルは説明されたことをしっかり頭に叩き込む。
「で、この時は緑射塔よりも先に白羊塔に行くの」
『紫獅塔へは?』
「紫獅塔へは昼からなのよ。下女があそこに行くには許可がいるから」
『え…そうなんですか?』
紫獅塔は私的住居空間。
本来、出入りする者は実は限られている。
「シエルちゃんは8人将の方たちととっても仲がいいものね。咎める人がいないのよ」
『えっと…なんだかすいません…』
「あら、なんで謝るの?そんな方たちとお近付きになれる機会なんて滅多にないんだから胸を張ってたらいいわ」
普通の人間なら入れないところにしょっちゅう足を踏み入れていることに罪悪感を感じ思わず頭を下げる。
それでもセシルの声色は変わらぬまま。
だが次に呟かれた小さな独り言をシエルは聞き取ることはできなかった。
「そう、シンドバッド様も…」
『え…?』
微かに聞こえなかった言葉を聞き返すように慌てて顔を上げるとなんでもないわ、とセシル。
この時、頭を下げていたから気付かなかった。
「さぁ、頑張りましょうねシエルちゃん」
彼女の表情が怪しく歪んでいたことを。
無機質な瞳
(覚えてもらうことは多いから覚悟してね!)
(は、はいっ!)
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原作9巻へのフラグ。
そしてしばらくオリキャラ出張ります…すいません;
でもジュダルも出します(・ω・´)
お付き合いくださいませ。
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