見出した新たな力が、シエルにとっては珍しいものだと言う自覚はなかった。
ただ好奇心でやってしまったらできた、というだけのこと。
しかし魔力操作ができるとヤムライハがシンドバットに告げた時のあの驚きの表情は逆にシエルを驚かせた。
『…そんなに凄いことなんですか?』
「あぁ。完全に習得するのは俺ですら1年かかった」
『1年!?』
「それ程特殊ということです」
脅威ともされているシンドバットですら1年。
それを考えるとこの魔力操作というものの異端さをまざまざと感じる。
だがヤムライハはむしろ目を輝かせながら、シエルの手を取った。
「でもこれは充分シエルちゃんの武器になり得るわ!」
そのやり取りを終えた後、握ったり開いたりした手の平を見つめ、今目の前に立っているアリババを見据える。
本当に魔力操作ができるのか、という確認。先程のヤムライハとは違うものでそれを試してみるとのことだ。
シンドバットを筆頭にそれをこの目で確かめんとする者は多く、周りには小さなギャラリーができている。
「いいか?」
『いつでもどうぞ』
シャルルカンが頷き、アリババに激を飛ばす。
「よし、アリババ!」
「はい師匠!行くぜアモン!」
アリババが構えた瞬間ゴッ、と熱が巻き起こり姿形を変える宝剣。
赤く燃えたぎる大きな剣。
他人の魔装を見るのは初めてだと今更ながら気付いたシエルは少し怖じけづき、不安が過ぎった。
―でも見える。
力強い魔力がそれを取り巻いているのが。
「…魔力の流れが見えるか?」
『……はい』
声を発さないシエルへのシンドバットの問い掛けに素直に言葉を返し一歩、シエルはアリババへと近付く。
『アリババくん、剣…触っても大丈夫?』
「触る…?って、」
『うん』
「「「!」」」
アリババの返答より先に、シエルの手先がアモンに触れた。
熱くないのかと思うが、この時シエルの手先は無意識の内に魔力で覆われていた。
その魔力もまたアモンの宝剣に纏われた魔力とは逆の流れを持つ魔力である。
「(無意識の内に相殺とは…)」
『……いくよ?』
「な…!?」
「「「「「!!!!」」」」」
シエルが目を閉じた瞬間、アリババ魔装が解かれていった。
もとの短剣の形へと姿を変えたアモン。
まさかここまであっさりと魔装を解除されるとは思っていなかったアリババは信じられないと言ったように短剣を見つめている。
同様に辺りもざわめき、シエルも自分の手を見つめてふぅ、と息をつく。
指先が少し震えている。
そして心なしか、息も上がってきている。
「マジかよ…」
本当にただの短剣に戻ってしまったアモンを見つめアリババが立ち尽くす中、突如襲い来る疲労感。
くらりと視界が反転して何が起こったかわからないまま全身の力は抜けていった。
残照の間引き
(…魔力操作の魔力量はまだ扱いきれていないらしいですね)
(とにかく早く部屋に運びましょう)
(俺が運ぶからな)
(はいはい)
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