とある目覚めのいい朝。
夢から覚めたばかりのシエルは最近覚えたばかりのヤムライハの部屋への道を急いでいた。
扉の前で息を整えるとよし、と意気込んで扉をノックする。


「はい?」
『ヤムライハさん、シエルです』


ガチャリと音をたてて開いたドア。
どうしたの、と問うヤムライハに、シエルは一歩踏み出して言った。



『私に…魔法を教えて下さい!』



ジンを手に入れ、武器化魔装をして。
力を手に入れるということの重み、そして守りたいものを見つけた。

―ならば強くなってやろうじゃないか。

決意したシエルの瞳には強い光が宿っていた。














「そうよね…あの時は私としたことが完全に頭からすっぽ抜けてたんだけどシエルちゃんの武器化魔装ってあれ光魔法よね!?構造はどうなってるのかしら…というか普通の魔装すっ飛ばして武器化魔装だなんて…あっ、シエルちゃん魔装は!?魔装はできるの!?それができないんならまた話は変わるんだけどそっちも勿論光魔法よね…私の得意魔法は水だし反射を利用すれば相性は悪くはないわ…なら魔装、武器化魔装が操れるようになったら私とタッグ組みましょう!だから早く金属器を扱えるよう修業するわよ!!私のことはまた師匠と呼ぶように!」


とりあえず耳を塞ぐ事から始めさせていただきたい。
ヤムライハに輝きの度を越したギラギラとした瞳で詰め寄られ、否定の言葉が口から紡げる訳がない。

訳も理解もままならぬまま、こうしてシエルの修業は始まったのであった。
だが遅かれ早かれ金属器を扱えるようにならなければいけないとは思っていたので理由はさておき修業を付けてもらえるのは嬉しいものだ。
魔法の原理自体はヤムライハやジャーファルから指南され頭に知識はある。

だが実践はそうはいかない。
頭で理解はしているのとは裏腹に上手く体は着いて行かず、逸る思いから苛立ちを覚えさせる。
魔法のこととなるとスパルタになるヤムライハの修業は実に厳しいものだった。
全くの0からのスタート。あるのは付け焼き刃の知識だけ。
それだけで魔法に挑むとは愚の骨頂だと止めたものもいたが、シエルの決意は固かった。

魔法の才はある。

ヤムライハはシエルを見た時からわかっていたが、彼女の要領はわからない。
ただし、シエルの決意とやる気には答えられなければ自分が師匠と呼ばれる資格はないだろう。


「いい?まずはイメージが大事よ。人によって得意な魔法の属性は違うし、命令を下すだけでは駄目!ルフ達を使役するの」

『はい!』


魔力を使う、ということもやってみなければわからない。
実践あるのみといえばそうなのだがなかなかうまくいくものではないのは確かだ。


「…一旦休憩しましょうか?」
『……っ、はい…』


肩で息をするシエルにヤムライハが声をかければその場に崩れるように座り込んでしまう。
魔装と武器化魔装の容量は似ているようで違うらしい。
理屈ではなく感覚で覚えなければ実践でた使い物にならないだろう。


「でも…凄いわね、もう魔装も武器化魔装も魔力の使い方は上手いもの」

『…ホントですか?』
「えぇ。私が保障するわ」


魔法の事でヤムライハに褒められるのは光栄なことだった。
他を気にする余裕が今はないシエルにとっては誰かからの言葉が1番の情報となる。


「シエルちゃんの魔装は魔力調整が難しそうだけど後は応用よ。それから魔力残量には気をつけてね」

『魔力がなくなったら、どうなるんですか?』
「魔力がなくなれば魔装も武器化魔装もできなくなるわ。シエルちゃんはジンが宿ったのがアリババくんの様に元が武器であるものじゃない。魔力切れは致命的よ!」

『あ…そっか、アリババくんの金属器は剣だから…』


金属器は単体で使えるか使えないかでも戦場では大きな差だ。
攻撃は最大の防御とはよく言ったもので自分の身を守るものがなくなる、と考えれば魔力切れがどれだけ大きな問題かもわかる。
なら自分は、とうんうん頭を唸らせるシエル。
そんなシエルにヤムライハは向上心も関心ながらその才能に身震いを隠せないでいた。

―おそらく、シエルの魔力の量は多分魔具に蓄積した魔力を足しても自分を上回るだろう。

アラジンに魔法を教えている時と同じ、そんな感じがする。



「まぁ、今はそんな難しく考えないで。まずは魔法に触れてみる事から始めましょうか?」



ならば今自分ができるのはシエルの才能を最大限に発揮させられるようにすること。
ヤムライハは得意の水魔法で水球を作り出した。
ふわふわと宙に浮かぶ水球。
初めて見るそれを興味津々に関心を示し、目を輝かせながら水球に近付く。


『さ、触ってみてもいいですか?』

「いいわよ」


まずは指で突いてみた。
ぷよんと形を変えるが、それは確かに水であり水を突く、とは不思議な感じだ。
おぉ、と目を輝かせるシエルをヤムライハは微笑ましい光景として見守る。
だが、そっと手の平全体で水球に触れてみたシエルの目が変わった。



―魔力の流れが見える



『…ヤムライハさん』
「なに?」
『ちょっとやってみたいことがあるんですけど、いいですか?』

「いいけど…やってみたいことって…?」




そこでシエルはゆっくりと目を閉じた。
スッと息を吸い込み、意識を水球に集中させる。
指先でヤムライハの魔力の流れを感じ、シエルの意識から周りの音が消えていく。
そして




パチンッ




「!?」


音を立てて水球が弾けた。
本来ならこの水球はヤムライハの魔力で出来ている為シエルに物理的に破壊されることはない筈。


「(私の意志に反して割れるなんてありえない…!)」

『…できちゃった…』


隣でヤムライハよりも驚いているのは当の本人で。
自分の手のひらを見つめながら降りかかった水を見つめている。

自分の頭の中のキャパシティが権界を超えようとする中、ヤムライハはあくまでも冷静だった。
本当なら飛びつきたい勢いなのは確か。
だが今回の現象は異端すぎる。


「…今の、シエルちゃんがやったの…?」


ぽかんとした顔ではい、とヤムライハに振り返るシエル。
この表情は自分でもまだ理解が追い付いていないといった感じだ。



『ヤムライハさんの魔力の流れと反対の魔力を…こう、相殺する感じ…で』
「魔力の流れ?」

『はい。なんとなく…わかるんです。……ルフたちが教えてくれるから』





―この子、魔力操作ができる…!






ヤムライハがシエルの新たな才能を見出した瞬間だった。







おこがましい幸せを射抜く

(気付いた先には荊の道)




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魔力操作うんぬんの話は至らぬ点が多発するかもですがまったり温かい目で見守ってやってください。
あと2部から題名が普通になります。
すいません題名のストック切れました^p^

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