…どうしてこうなったんだろう。
膝に感じる重量感。
その重さはよく私の膝に乗るアラジンくんの比ではない。
『…シンドバッドさ〜ん……』
「……」
あぁ駄目だ完全に寝てる。
『ジャーファルさんに怒られても知りませんよ…』
と言いつつも私の膝に頭を乗せて眠るシンドバッドさんを無理にでも起こさない私も悪いのかもしれないけど。
事の発端は数分前。私がジャーファルさんのお手伝いがてらシンドバッドさんの様子を見に来た時だった。
珍しくちゃんと机に向かっていらっしゃる…と思いきや顔は完全に机に突っ伏している。
そう言えば昨日は徹夜だった、とジャーファルさんから聞いていたのでお疲れなんだろうと言うことは私の頭でも察することが出来た。
いくらシンドバッドさんとは言え流石に徹夜明けはキツいだろう。
昨日徹夜だったおかげでお仕事はあまりないらしい。机に積まれた書類の山はいつもより数段低い。
寝かせておいてあげたかったけど、机に突っ伏していては起きた時に体の節々が痛くなってるんじゃないかと心配になった。
『シンドバッドさん』
「…ん?……シエルか…?」
ゆっくりと起き上がるシンドバッドさん。
焦点がなかなか合わずにいまだ眠たそうな顔をしている。
『寝るんだったらせめてあっちのソファで寝た方が…』
「………あぁ…」
『…?』
ふらり、立ち上がったシンドバッドさんがなぜか私の手を取った。
覚束ない足取りでソファは目前。
なんで私まで?と思いつつ目線で促されソファの端に座る。
するとどうしたことだろう。
「…半刻過ぎたら起こしてくれ」
『っへ?……!』
私の膝に、シンドバッドさんの頭が。
ソファは長いからシンドバッドさんが寝転がってもまだ余裕がある。
べ、別にシンドバッドさんが苦しくないならいいんだけど…その、如何せん私の頭の中を占めるのは恥ずかしさだった。
かなりマシになったとは言え、この人は私が男性恐怖症だったということを忘れてはいないだろうか。
(とは言っても慣れた原因もまたシンドバッドさんが筆頭なので 怖くはないのだが)
気持ちよさそうな寝息が聞こえてくる。
恐る恐るソファに流れる髪を掬ってみれば指の間をサラリとすり抜けていった。
綺麗な髪、と思って少し頭を撫でたりしていたけどすぐに恥ずかしくなってやめた。
相当お疲れだったんだろうな、と机を見て思う。
これだけ減らした書類もものの見事にすぐに山積みになってしまうのだろう。
起こせない辺りやっぱり私シンドバッドさんが好きなんだなぁと思ってしまう。
もちろんジャーファルさんたちも大好き。
みんなみんな守りたい家族。
右腕に光るブレスレットには手に入れた力がある。
これからは、守られた分私が守る番。
でもまずは小さな手助けから。
シンドバッドさんの机とは違う業務机になんとか手が届きそうで、できるだけ足元を揺らさないように手を伸ばしてみる。
『(あ、届いた)』
小さな書類の束が手に収まる。
膝の上からまだ寝息。よし、起こしてない起こしてない。
シンドバッドさんは起こせない。
だから代わりに私が少しでも仕事しておくんで、勘弁してくださいねジャーファルさん。
安らかに始まる嬉遊曲
(シン、仕事の方は……あれ?)
(あ、ジャーファルさん。こっちの書類は終わってますよ)
(……何を幸せそうに寝てるんですかねこの王は…)
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第2部ほのぼの発進
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