頭がガンガンする中目が覚めて。
昨日の夜の記憶が一部抜け落ちていることに気付いた。
ヤムライハさんに文句を言いに行こうと思って、行ったら行ったでピスティさんとかジャーファルさんとかにも散々言われて、半ばヤケになってピスティさんの持ってたお酒を…。
そこまで思い出して自分の顔が青ざめたのがわかった。
お酒なんか飲んだことなかったし自分がどんな風になったかなんてわからない。
しかも記憶がないって、相当やばいんじゃないのか。
…これはダメだ、ちゃんと確かめなきゃ。
誰だかわからないけど私の部屋まで運んでくれたらしい。
ベッドから下りてまず顔を洗いに行こうとしたら足取りは全く定まらなくて上手く視点も定まらない。
酷い、これは酷い。
尚更自分の真相を確かめに行かなくては、と部屋を出た。
『………え?』
ガッ、と足元に何かの感触。
足元を見なくてもわかる。廊下に死屍累々と折り重なった見知った人達が倒れていたから。
『アラジンくんにアリババくんにモルちゃんにヤムライハさんにシャルルカンさんにマスルールさんにピスティさんにジャーファルさんまで…』
状況の整理が全く追いつかない。
なんでこんなことになってるの…?え?もしかして私昨日何かやらかしちゃったとか…!
取り返しがつかないようならもう土下座しようホントに。
「ん……シエル、大丈夫ですか?」
『あっ!?じゃ、ジャーファルさん、おはようございます…』
「えぇ」
『それで…あの…これは一体…』
これ、と言って視線は廊下で爆睡する全員へ。
ジャーファルさんはシラフなのか、そうじゃないのか、表情からは読み取らせてくれない。
でもまともに話ができそうなのはジャーファルさんぐらいだ。
「これに至るまでは少々ややこしい話になりますので、また時間のある時にお話します」
『…はぁ…』
「それよりもシンです。私の監視が甘いと酒が抜けなければ爆睡、抜けていれば脱走を図りかねません」
『……今日もお仕事ですか?』
「まずは片付けからですがね。シエルは今日はゆっくりしていてください。でもシンを見つけたら確保願います」
『…いいんですか私も手伝いますよ…?』
「あれだけ飲んだんです。今相当気分も悪いでしょう?」
…どれだけ飲んだの私…?
醜態を晒していないか、それだけが心配なんだけど…聞くのも恐ろしい。
でも人様に迷惑をかけていないかを確かめなければ。
そうしないと私はもう…なんか、こう、色々とやってられない気がする。
『私…どうなりましたか?』
「……知らない方がいいと思います」
…よし、これ以上聞かないようにしよう。
とりあえずこの場で寝ている人達をどうしますかと聞けば放って置いて大丈夫ですとジャーファルさん。
いいのかなと思ったけども気分が悪い人もいると思うので起こさない方が吉かもしれない。
逆に言えば明らかに酔っていないモルちゃんやアラジンくんには申し訳ないような気がしたけど連鎖反応で起きてしまいそうな気もしたのでそのままにしておくことにしよう。
ジャーファルさんは酔っているのか酔っていないのかわからないまま颯爽と片付けの筆頭に立ちに行った。
…凄いなぁ。
と思っている間に顔を洗いに行った私はいくらか気分がスッキリしていた。
結局シンドバッドさんはダウンしてるのかな、それともどこかに行っちゃったのかな。
個人的な勘は後者なんだけど。
なんとなーく、シンドバッドさんはあそこにいるような気がした。
『…休め、…って言ってたし、外出てもいいよね…?』
まだ頭はズキズキと痛むけど、私は自分の勘に従ってあそこに行くことにした。
『あ』
自分の記憶は曖昧だったけど辿り着く事ができた、ここは私がウリエルに意識を落とした泉。
その水際にあの人の背中を見つけた。
長い髪に派手な装飾、分かりやすい背中だと思う。
まだ私の気配には気付いていないのか振り向いたりはしない。
珍しいな、いつもは私が後ろに立っただけで振り返るのに。
でも昨日はお酒も飲んでたからそのせいかな、と自己解決。
『シンドバッドさん!』
「!?」
今回は私が驚かす番だと思って声をかけたら予想以上に肩が跳ねた。
思いっきり私の方を振り返って、大きな息をつく。
「シエルか…ビックリさせないでくれ」
『ジャーファルさんだったらよかったです?』
「おっと、それは更に勘弁だな」
やっぱり仕事はしたくないらしい。
シンドバッドさんらしいというか、なんというか、でもジャーファルさんがちょっと可哀想…じゃないかな…。
『シンドバッドさん、お酒の方は大丈夫なんですか?』
「そうだな…まだ全快とは言えないが大丈夫だ」
『じゃあ…なんでここに?』
ザッと風が吹いて舞った髪に視界が遮られる。
私がここに来た理由。シンドバッドさんがここにいると思ったから。
確信にも似た勘だったけども、じゃあシンドバッドさんはなんでここに来たの?
「なんでだろうな………まぁ、なんとなくだ」
『…なら、私と一緒ですね』
勘でもなんとなくでも一緒。
私は思わず笑って泉に近付いた。
澄んだ透明な泉に自分の姿が跳ね返る。
ここに初めて来たあの日は夜だったからこんなに綺麗だとは思わなかった。
でも、泉に映った月も綺麗だった、それだけはしっかりと記憶にある。
泉の縁に座り込んでパシャリと片足を泉に浸せば冷たさが身に染みる。
「シエル、君はこの世界を選んでよかったと思うかい?」
座り込んでいる私の背中にシンドバッドさんが凭れ掛かるのがわかった。
全体重がかかっているわけではないので重くはない。
むしろ感じられる暖かさと少しの重みがシンドバッドさんを感じられて丁度いい。
『…ウリエルの言ってたことですか?』
「あぁ。後悔はないと言ったがそれは本当の本音か?」
シンドバッドさんは知っている。
私の胸の内に秘めた葛藤を。
『そうですね……本音、というのは嘘かもしれません』
「…そうか」
『でもここにいたいという気持ちは本物です』
「!」
今度は私からシンドバッドさんに凭れ掛かってみた。
私より遥かに大きい背中が少し揺れたのがわかる。
まだ昨日の酔いでも残ってるのかな。
色んな意味で赤いであろう私の顔、今日の私はやけに饒舌な気がする。
昨日のことは覚えていないけど、飲む前にこの人に言ってしまったことはしっかり覚えている。
あの言葉だって嘘じゃない。
そう思うと私って意外とお喋りなのかもしれない。
『自分の道は自分で決めるって、教えていただきました』
私はこの世界に生きる人たちを見てそう習った。
これでよかったのかはわからないし、その良し悪しを決めるは誰かでも私でもない。
間を置いてそうか、とシンドバッドさんの声が聞こえる。
ぱしゃり、泉に付けた足で水面を蹴りあげれば水がキラキラと太陽に反射した。
とても綺麗に光った水。
見方によって綺麗とも怖いとも取れる水って不思議だよね、そんなちょっとずれた考え。
私がウリエルを攻略した後に聞いた話だけどこの泉には伝説があったらしい。
―"満月の夜、湖畔に映る月は人を呑み込む"
確かに夜には吸い込まれるような月は怪しいの雰囲気はするのかもしれない。
でも私はそれすら綺麗だと思ってる。
考えなんて人それぞれで、価値観なんて違うもの。
それでいいかなって、思ってしまえるようになった。
だから、これでいいの。
「…なら、しっかり俺について来て貰うぞ?」
『はい!』
私はここで生きて行く。
「じゃあ帰るか。俺たちの家に」
ここで出会えた奇跡に
全ての出会いに感謝して
『はい!』
私は歩いて行く
小さな奇跡の歌姫
(帰るべき、家族の所へ)
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第一部完結
この後オリジナル第二部(10話〜20話ぐらい)を経て原作に沿わせようと思います。
あと番外編も書きたいですね…
・シエルの日記
・謝肉祭でヤムライハに着替えをさせられる経緯
・謝肉祭のその後なんであんなことになったか
とりあえず書きたい話はこんな感じです。
話の間に書くとテンポが悪くなりそうなので書けませんでしたが番外で!と思っています
他にも一部内でここら辺の話kwsk!みたいなのありましたらご一報ください^^
ここまで読んでいただきありがとうございましたm(_ _)m