王宮は朝から忙しかった。
別に今日に限ったことではないが、王がいないとジャーファルが頭を抱え皆がそれを探しに駆り出される。
結構な頻度でシンドバッドは仕事をすり抜けていく為、いつかジャーファルの胃に穴が空くのではないだろうか。


「マスルール、貴方もお願いします。もしシンが酒を飲んでいたとしたら酒臭い人を探せば一発でしょう。あとシエルを起こして来て下さい。運が良ければ同時に見つかると思うので」

「はぁ…」


ファナリスは鼻がきく。
それを知った上での頼み、特に直接自分に被害がある訳ではないが断る理由もまたないのでマスルールは大人しくシンドバッドを探すことにした。
探す、と言っても散歩がてら王宮を歩きながら鼻を利かせていればいい話だ。
そう難しい話ではない。
傍にシエルがいたとしたら、尚更。

王宮内に酒の匂いを漂わせている人間、と言う条件は色んな人間に当て嵌まるものだが、匂いのする部屋の方向を考えるとなんとなくそれが誰かは予想がつく。
どうやら昨晩はシャルルカンとピスティが浴びる程酒を飲んだ様で明らかにその方向が酒臭い。そして若干アリババの部屋からも。師匠のシャルルカンにでも嫌々連れ出されたのだろう。

だが今日はそれ以外に濃い酒の匂いはしない。

シンドバッドが酒を飲むとしたら他国での宴以外でセーブなんて出来るはずがないのだ。
と言うことはシンドバッドは酒を飲んでいないと予想するのが妥当だろう。
ならどこにいるのか、あまり考えることが得意ではないマスルールは最低限の注意をしながら王宮を渡り歩いた。

ジャーファルの言いつけに従い、シエルを起こそうとして部屋に近付いて、そして気付く。
シエルが部屋にいない、と言うことに。
異界から来た、というシエルはなぜか人として香る筈の匂いが薄く、マスルールの嗅覚をもってしてもシエルを特定するのは難しい。

シンドバッドがおらず、シエルも部屋にいない。

また何かやらかす気なのかと頭の隅で考えつつも表情を変えることなくマスルールは冷静だった。
辿ることができるギリギリのシエルの香りを追う。
するとそれはとある窓辺で不自然に消えているではないか。
しかし、そこまで来れば探すのは簡単だった。
近くから間違えもしない、シンドバッドの匂いがする。

窓辺に足をかけ、力を入れるが王宮は壊さぬよう加減をして屋根へと飛び移ればそこには仲良く寄り添う探し人が2人。
流石はジャーファル。言った通り纏めて見付かった。

穏やかな顔でシンドバッドに抱かれて眠るシエルに表情を変えずして驚く。
あれ程まで、しかも意志を問わず反射的に男性を拒んでいたシエルと既にこれだけ距離を縮めるとは。
これも王としての器量か、はたまたただ女の扱いに長けているだけか。


それはさておき、マスルールは悩んだ。

ジャーファルにシンドバッドを探せとは言われたが連れて来いとは言われていないのだ。
なのでどこにいたかと聞かれたら答えたらいい。マスルールはそう思い大人しく2人の前を後にした。

―願わくば、この穏やかな笑顔が続きます様に。


後に黒いオーラを発するジャーファルにマスルールもシンドバッドもシエルも纏めて怒られるのは別の話。






心地よい空の歌

(なんで見付けたなら早く言わないんです!)
(…伝えろとは言われてなかったんで)
(普通は伝えます!シエルもあんな無防備に寝てたらシンに襲われても文句は言えませんよ!)
(お、襲っ…!?)
(失敬な!俺はそんなこと(しないとは言い切れません。それにシエル、貴方はただでさえ目立つ容姿なんです。気をつけてください)
(はい…)
(…俺の言い分は…)
(シン、今日からシンには私が付きっ切りで仕事をして貰いますからね)
(…え)

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