こっちの人はスキンシップが激しいと言うかボディタッチが多いと言うか。
シエルは夜風でも収まらないほてりを冷ましながら宴の場を歩く。
なにより広いこの場では知り合いをなかなか見付けられない。
さっきはよく見付けてくれたものだ、と思ったけどまた恥ずかしくなってきて思い出すことを止めた。

特に誰かを探している訳ではなかったが、シンドバッドがいる場所はとてもわかりやすく嫌でも目に入ってしまう。
理由は簡単、きらびやかな衣装を纏った美しい女の人達が我先にとシンドバッドの元に近付いていくからだ。
遠巻きにシンドバッドが美女を膝に乗せ隣に座らせている姿は確認できた。
よく冗談で(本人的には冗談じゃないかもしれないが)膝に乗るか?と聞かれたが成る程こういうことかと妙に納得してしまう。


『(私もあれだけ綺麗だったらなぁ…)』


思って、よくよく考えて首をぶんぶんと横に振った。


『(綺麗だったら…!?なに?シンドバッドさんの膝に乗る…!?な、な、何考えてるの私!そんな恥ずかしいことできるわけが…)』

「シエルさん」
『はいっ!!!?』
「………どうかしましたか」
『えっ?あっモルちゃん?な、なんでもないよ』
「…そうですか」


突如のイレギュラーな声かけに素っ頓狂な声を上げてしまい、振り向けばいつも通りのモルジアナの姿。
そして一緒に食べませんか、と丁度二つ空いた空席を指差す。
そのテーブルにはマスルールも座っており、視界に捉えれば来い来いと手招きが。

いいの?と聞けばはいと返事は返ってくるだろう。
お言葉に甘えて足を並べてテーブルへ向かう。

とりあえず挨拶だよね、とマスルールの横に立つとテーブルクロスの端をガシリと掴んだマスルールが思いっきりシエルの頬を擦り出した。


『マッ…!?ちょ、いた、いたい!です!』
「…すまん」


既に摩擦の域を越えた痛みが襲いそれを訴えれば特に表情を変える訳でもないマスルールの手が離れる。


『わ…私何かしましたか…』


また違う意味で赤くなった頬を自分の手で摩りながらシエルは問うた。
その表情は泣きそうだ。
…大分痛かったのだろう。
モルジアナは成り行きを見守る。
マスルールは何を考えているかはわからないが、無意味にこういうことをする人ではない。


「…さっき…先輩に」
『先輩…?シャルルカンさん……?…あ…』

「だから消毒」
『消毒って…』


こんな痛い消毒ってあるものか。
ヒリヒリて痛む頬を押さえながら、でも心配してくれたんだなという優しさを感じて。
モルジアナも大丈夫ですかと声をかけてくれた。

この2人は多くは語らず行動も不器用だが優しさには溢れている。
ファナリスの人柄なのだろうか。
定かではないがそんな2人と食事を共にするのは何となく胸がほっこりした気持ちになるような気がした。

突如マスルールとモルジアナが同じ方向を向き、どうしたのと聞けば探されてますよとモルジアナ。
言葉の意味を理解するより先に元凶が現れる方が早く、走ってきたのはヤムライハだった。


「見付けたわよシエルちゃん!」
『ヤムライハさん?どうしたんですか?そんなに慌てて…』
「話は後よ!とにかくいらっしゃい!!後でモルジアナちゃんもいらっしゃいね!」
『え?』


ガシィッ、しっかりとホールドされたシエルの腕はどこにそんな力があるんだと言わんばかりのヤムライハの細腕に引きずられて行った。
目まぐるしく去っていくシエルの背中。

そんな背中に赤髪の2人は呑気に手を振っていた。




束の間の三重奏

(…シエルさん…何に連れていかれたんですか?)
(……多分シンさんのところ…だと思う)
(あぁ)

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