確かに私はそこにいる筈なのに。
居場所がなければいる意味なんてないでしょう?
何もない空間。
何度か陥ったこの状態はウリエルだ、とすぐに察したので恐怖することはなかった。
でもこの空間はいつもと違い、私の右足と左足の間左右に割れて白黒に別れていた。
吸い込まれそうな黒と、何もない白。
相対して恐怖を覚えるものだが夢はあくまでも非現実だ。
―今宵、運命を決断する時
『…?』
運命?
声の聞こえた天を仰いだけどウリエルの姿はない。
決断もなにも、この道は望んで開いたものではなかった。
それなのに選べと言うのか。
どちらにも、私の居場所はないと言うのに。
全てを否定されたような気がした。
力の代わりはいくらでもいる。
なら、私自身はいらないでしょう…?
楽しいと、嬉しいと思った分だけのマイナスの見返り。
どこに行けばいいのかすらもわからない。
誰か教えてよ、私はどうしたらよかったの?
どこに行けばよかったの?
生きることに意味がないなら、
『もう、殺してよ…』
私の目にはもう前は見えない。
足元の真っ暗な空間がどんどん白を覆い尽くしていく。
次に足元からピチャピチャと水音が聞こえてきた。
心と体に冷たい水が少しずつ染みて来る。
気を失う前も、泉に落ちたっけ。思う思考は他人事の様だ。
冷めていく感覚がどこか気持ちいいとすら感じた。
水位が着実に上がっていく。
このままこの暗闇にいれば一人いなくなれるのではないかと。
何も考えずに無気力にそこに座り込み、体がまた水に浸かる。
元の世界にも、こっちの世界にも戻りたくない。
繋がりは嘘だったとしても、あの時感じた温もりだけは嘘じゃないって、夢見るぐらいなら許されますか?
ここは夢の中なのに夢を見るって言うのは可笑しいかもしれないけれど、最後の夢ぐらいは素敵な夢がいい。
アラジンくん、アリババくん、モルちゃん、ジャーファルさん、マスルールさん、ヤムライハさん、シャルルカンさん、ピスティさん、
それにシンドバッドさん。
例え偽りだったとしても、一瞬だけ貴方たちと見れた夢はとても幸せでした。
『…なんで泣いてるんだろ』
水位の上がる水の表面にぽつりと私の涙が落ちる。
その波紋が小さな波になって広がっていく。
まだ縋り付きたいの?
まだ寂しいって思ってるの?
まだあの居場所に戻りたいって、未練たらしく?
ぱちん
弾かれた様に顔を上げた瞬間。
「シエル!」
また声が、聞こえた。
一筋の幻想曲
(間違える筈もないその声は)
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