これは一人に少女を巡った運命の話。

王宮のとある一室は戦慄とした物々しい空気だった。
アラジンの一言に何が起こったのかの整理が更に付かなくなり混乱は増すばかり。


「迷宮…?!」
「うん。恐らく攻略するまでは戻って来れない」


周りに相反し、アラジンは淡々と話す。
意識のないシエルに困惑と不安が胸に募っていくばかり。

夢に落ちていったシエル。
夢に導かれた彼女の運命を知る者は恐らく夢に導いた者だけ。


「…それがウリエルが夢魔と呼ばれる由縁…か」
「"魔郷の迷宮"……ウリエル」


誰も見たことのないウリエルの姿にシエルの身を案じる。
完全に意識のない状態のシエルは何も語らない。


「でっ…でもよ!もしシエルが迷宮を攻略できなかったら…!!」


そして最悪の結末が頭を過ぎる。
アリババの言葉に何人かは同じく考えたくもない未来を予想してしまい、寒気すらした。
背中を駆け抜ける寒気はリアルな絶望を呼ぶ。


「遅かれ早かれこうなっていたとは言え…早過ぎましたね…」
「…あぁ」

「王…!なんとかできないんですか!?このままじゃシエルちゃんが…!」
「そうだぜ王サマ!こんな形じゃ終わるモンも終われねぇ!」




「わかっている!!」




悲しみにも似た悲痛な叫び。
シンドバッドはシエルの手を祈るように握り締め自分の無力さに歯を食いしばる。

見ているだけでも辛くなるような、そんな状況に一同は言葉を失った。
ここにいる誰よりもシンドバッドはシエルの身を案じている筈だ。
ジャーファルとアラジンは今の現状を作り出してしまったであろう経緯を知っている。
だからわかる。シンドバッドはやりきれない気持ちでいっぱいなのだろうと。


「アラジン…!お前の力でなんとかできねぇのかよ!?」
「…僕がマギと言ってもウリエルは干渉を嫌うみたいだから…」

「…っくそ!」


ダン、とアリババが壁に拳を向ける。
全員の表情に影が差しもう駄目なのかとすら思い出したがアラジンはでも、と言葉を続けた。




「一つだけ方法がある」



「!本当に…!?」
「これは賭けにも近いけど…まず僕がウリエルまでの道を作る。その道を通ってエルさんの意識まで直接干渉しに行くんだ」
「そんなことが…?」


アラジンが杖を手に取る。
マギの力を持ってしても干渉の難しいというウリエルの実態は全くといっていい程わからない。
そこに飛び込んで行かなければならないのか、息を呑んでその役目を誰がやるのかと顔を見合わせた。
そのままシエルを連れて帰って来れなかったら、アラジンは言わなかったがなんとなく察することはできる。


「でもこれはこの中だと多分おじさんにしかできないと思う。ウリエルはどうやっても侵入者を拒んでくるだろうし…何をして来るかわからない…それをくぐり抜けるには幾多のジンの力が必要だと思うから」
「…丁度いい…その役目は俺がやらせてもらおうと思っていた」

「「「!!」」」
「シン!貴方、戻って来れなかったら…!」







「帰ってくるさ」






シエルと共に、な。

強い眼光を皆に向ける。
その瞳に迷いはない。

未知の力に挑むことは既に何度も経験済み。
だが今回ばかりは1人のことではなく2人のことだ。

大丈夫なのか、そんなことを聞くのはもう野暮の領域。
シンドバッドはやると言っている。
なら、やりきってくれる。
それがこのシンドリアを纏め上げる王たる力。



「僕が意地でもウリエルに干渉して迷宮までの道を作るから。あとはおじさん次第だよ」

「あぁ」
「じゃあ……行くよ!!!」


アラジンが杖を振りかぶり、魔力を杖に込める。
ぽつ、ぽつ、と杖が輝き出し。部屋一帯に光が立ち込めた後に。




「待ってろよシエル…!!」





シンドバッドの意識は途絶えた。






















―マギの次は第一級特異点とは…今日は何の騒ぎだ。
「…ここは迷宮の中か?随分何もない空間なんだな」

―そうだ。まさかこの私がここまで侵入を許すとはな…。
「昔馴染みもいるだろう?」

―あぁ。フォカロル達の事か?
「その顔に免じてここを通しちゃくれないか」

―なぜそこまで彼女にこだわる?
「…約束を…守るために」




もう悲しませたりしないと約束したのに。
結局のところ彼女を悲しませてしまったのは俺自身なのかもしれない。

それでも、そうなったとしても。
最悪の道だけは辿らせない。
彼女の笑顔は失わせない。



「俺には……シエルが必要なんだ」

―………随分勝手な言い分だな。



「だが君は俺に"主を導け"と言った。ウリエル。君こそ望んでいるんじゃないのか?シエルがこの世界に留まるということを」



これはあくまでも俺の憶測。
俺がシエルを見つけていなければきっとあのままシエルを放って置いたならきっと死んでいたことだろう。

その手助けをし、あの言葉を残したウリエルにはここまで人を拒む理由が見つからないのだ。




―面白い……ならば運命の糸で貴殿を試そうじゃないか




一瞬で闇に染まった視界に。
一瞬で見えたのは闇に浸された水の中に蹲っているシエルの姿だった。






―主を、頼んだぞ






もう迷わない。



「シエル!!」



俺はキミに手を伸ばすよ。








迷いはしない聖譚曲

(この声はキミに届くのか)


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