"家族"ってなんだろう。
数日前ジャーファルさんと兄妹みたい、と言われてちょっと考えていることがあった。

私を受け入れてくれたこちらの世界の人達。
家族なんているようでいなかった私にとって初めての家族。
でも私には家族というものがどういうものかわからないでいる。
ただ、兄妹と言われたことには全然嫌悪感を抱かなかった。
むしろじゃあモルちゃんが妹、ヤムライハさんやピスティさんがお姉さんかなぁと思うと少し楽しい。

繋がりを決めるものって、なんだろう。
最近私はずっとその自問自答が止まらない。


「どうかしたのか?」
『え?』

「先程からボーっとしているが…」


シンドバッドさんの言葉にハッとして、自分が今業務中だということを忘れていたことに気付く。
完全に止まっていたペンはインクが渇ききってしまっていた。
考え出すとそれ以外の作業がストップしてしまう、最近気付いた私の悪い癖だ。

心配そうに私を気にかけてくれたシンドバッドさんにすいませんと一言


「考え事か?」
『……はい…』

「何かあったなら言ってくれ。力になれるかはわからないが…話ぐらいなら聞けるぞ?」
『……』


カタリ、とシンドバッドさんがペンを置いた。

私をこの世界で最初に受け入れてくれたのはこの人だった。
多くの民を家族と称し、全てを包み込み国としているシンドバッドさん。
その器量から誰にでも愛され誰でもそれをよしとしてしまう。

私を"家族"と迎え入れてくれたこの人の、
―シンドバッドさんにとっての家族とはなんなのだろうか。


『…シンドバッドさん……』
「なんだ?」

『貴方にとっての……"家族"ってなんですか……?』


私とシンドバッドさんの長い髪が揺れる一陣の風が駆け抜ける。
シンドバッドさんの紫色の長い髪が靡くのが凄く幻想的な姿に見えた。

ザワ、と心がざわめいてごくりと息を飲む。
乱れた髪を掻き上げ、シンドバッドさんのう〜んと言う唸り声。
王たる彼の、家族の定義は気になるもの。
例えそれが私の答えに繋がらなくてもヒントにはなる筈だ。


「そうだな……逆に聞くがシエルは家族を何とする?」
『…やっぱり…血の繋がり、とか……』

「俺はな、誰を家族とするかを決めるのはそんなものじゃないと思っている」

『……つまり?』


席を立ったシンドバッドさんが私に近付いてくる。
最初は怯えてばかりだった私も大分男性にも慣れたものだと思う。


「つまりは、こういうことさ」
『え?』


シンドバッドさんが乾いたペンを持ったままだった私の手を取った。
こういうこと、というのが何を指すのかわからずペンが私の手から滑り落ちる。
スッと持ち上げられた私の手。
広がった服の裾を捲られ、貰ったブレスレットが鈍く光り手の甲に暖かい感触。



「誰かを思い、思われること。家族の繋がりなんてそれだけで十分だ
俺は民や臣下を思い、臣下は俺や民を思い、民は俺や臣下を思ってくれる
人が人たる所以。それ以外に家族と言わない理由はない」


シンドバッドさんの唇の触れた甲に熱が集まる。

―あぁ、だからこの人は王様なんだな、と。
―だから私はこんなにこの人を好きになるんだな、と。



「だから勿論シエルも俺の大事な家族さ」

『家族……』


胸がくすぐったくて、でもどこか暖かくて。

悲しくなんてないのに鼻の奥がツンとした。
泣きたくなんてないのに。
嬉しくてたまらないのに。

来た場所がここでよかった。
この人たちに会えて、この人たちと家族になって、本当によかった。

滲みそうになる涙を堪えて、私に笑顔を向けてくれているシンドバッドさんに笑顔を返した。




思い合う瞑想曲

(そういえば、この前シンドバッドさんは皆のお父さんって話をしました)
(俺が父親?…そんなに俺は老けてるのか…?)
(あ、いえそういう意味じゃなくて…!)

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