闇夜に浮かぶ月を見上げ、シンドバッドは一人思いふける。


「シン、風邪でも引きますよ」
「ジャーファルか」


気配を消して現れた臣下に驚きもせず、視線をジャーファルにやった。
シンドバッドから一歩引いた隣に足を並べ、同じくして空を見上げる。
今夜は美しい円を描く満月ではなく、ぽっかりと欠けた三日月。
それでも辺りを照らすには充分な月光が互いの表情を映し出す。


「珍しいですね。仕事の方をこうもあっさり片付けるだなんて」
「…今日は月を見たい気分だったんだよ」

「それで仕事が捗るなら毎日でもご覧になってください」
「それは皮肉か?ジャーファル」
「えぇ勿論」


笑いながらの皮肉冗談はジャーファルらしい。
いつも苦労させられている分これぐらいの皮肉は許されるだろう。
シンドバッドは言い返すこともできず、だが眉根にシワを寄せた。
夜風が2人の間を駆け抜けて小さな粉塵が舞い上がる。
心地好い、とは少し言い難い冷たい夜風。
シンドバッドの長い髪やジャーファルの服裾が弄ばれる。


「今夜は満月じゃありませんね」
「そりゃあいつしか月は欠けるだろう」

「貴方が見たかったのは三日月ではないでしょう?」


本当にこの優秀な部下は何でもお見通しだな、とシンドバッドは末恐ろしさすら感じた。
頭を掻き毟り、やれやれと息をつく。
彼女が、シエルが舞い降りた夜の月はそれはそれは美しい満月だった。
あの光景を彼は一生忘れることはないだろう。


「…そうではないと言ったら?」
「なら、私は貴方を嘘つきと言わなければいけません」


ジャーファルにはわかっている。
今のシンドバッドの頭に浮かんでいる人物も、なぜ今シンドバッドがここに来て月を見上げているのかも。
だからこそ嘘だとわかる。

シンドバッドは間違いなく満月を見に来ていた筈だ。


「…月の魔力が嘘をつかせているのかもな」


焦がれ、慕う等身大の思いは君なしでは伝えられなくて。
結局はまともに直視などできなくなってしまう。


「月の魔力……ですか」


それが良いのか悪いのか。
誰にも答えを出すことができない迷宮。
足を踏み入れてしまったからには出口を探さなければならない。


「この七海の覇王が誰もが迷う陳腐な迷宮に迷っているだなんて」


それは恋の有罪迷宮。
怪しく笑うような三日月がずっと二人を見下ろしていた。








月に迷う狂詩曲

(……その迷宮は攻略できそうなんですか?)
(…さぁ、な)




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前にMemoで呟いてたこの長編のイメージソング
"エンヴィーキャットウォーク"
イメージで書いてみました。

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