服を買いに行く、とは言ったものの政務状況が落ち着かなければ八人将ともある二人が市場に行ける筈もなく。
外に出る理由さえなければ私服なんかいらないんじゃないかとすら最近思うようになってきた。
現にジャーファルは仕事が趣味であり私服など持っていないらしい。
厳密には言えば私服自体はあるが着れない、と言おうか。
まぁ着れなければ意味はない訳で。

おしゃれというかなんというか、数日前シンドバッドに貰ったブレスレットは身に着けているものの飾り気はそれ以外には全くと言っていい程ない。
最初はなかなか着方がわからなかったが、もう着慣れた神官服を見つめたピスティがうーんと唸る。


「せめて神官服の種類はーとか思わない?」
『別に不便はしてないですし…』

「勿体な〜……………あ!!」


唐突に声を上げ、手を打ったピスティが自室のベッドに投げ捨てられた服の山を漁り出した。
向かいでその様子を見つめていたシエルが首を傾げる。
説明が遅れたがここはピスティの自室。
ヤムライハが忙しそうだからとお呼ばれされたシエルはピスティの少し低めの椅子に腰掛けていた。


「えっと…確かこの辺に……あった!」
『神官服…?』

「そう!これ私がデザインしたんだよ」
『…凄い…』


バサリ、とピスティが広げたのは変わったデザインの神官服だった。
肩とヘソが見える、と言うこと以外のアレンジは小さなものであったが、やはりシエルも服を見れば気になるもの。


「前にヤムの為に作ったんだけど機能製に欠けるって言われちゃってさ」
『そうなんですか?勿体ないです…』

「てことでシエル、着てみてよ!」
『………私が?』
「そ!」


ピスティのウキウキとしている様子が手に取るようにわかる。
多少の露出、と言えどデザイン自体は文句なしに可愛いのだ。

それによくよく考えたら、今の神官服も大差ないのではないかと思えてきた。
風土や気候の問題もあって多少の露出は普通だと思えば、シエルはピスティから服を受けとった。








『変じゃないですか?』
「なわけないじゃん!むしろ変って言ったら私がそいつをどうにかしちゃうね」
『……えー…』


誰も変って言わないで下さい私の為じゃなく自分自身の為に…!
シエルは内心で全力で願いつつシンドバッドの元に向かっていた。

「どうせなら王にお披露目しとこーよ」

勿論発案はピスティである。
ならついでに仕事のお手伝いができるかな、と発案に乗ったのだ。


「の前にシャルの部屋寄っていい?」
『いいですけど、何かあるんですか?』
「ちょっと次の飲み会の事でね〜」
『あぁ』


最近知ったことだが、シャルルカンとピスティは飲み仲間らしい。
ピスティは見かけによらず中身の精神年齢は随分大人だ。
恋愛事になると特に特化した知識と経験を有し、ジャーファルに頭痛を与える程である。
爛々とシャルルカンの部屋に足を傾ける姿を見るとピスティの酒、飲み会への喜びの尺度が伺える。


「お〜いシャルー!」

ガチャ
「ピスティか?調度いい、次の飲みの事だけ、ど………!?」
バタン



『…え?』


その間一秒もなし。
高速で閉められた扉。
扉を閉める直前、確実にシャルルカンはシエルと目があった。確実に。
シエルの隣でピスティがニヤリと笑ったのには今この場では誰も気付けないだろう。


「ほーらシャルどうしたの?」

「てめぇピスティ!シエルちゃんになんてカッコさせてんだ!」

『へっ!?』
「なにアタシのセンスにケチつける気?」

「俺はシエルちゃんにはまだ純情でいて欲しいんだよ!」
『え?え?私どこか駄目なカッコしてます…!?』


扉越しに会話が行き交う。
純情でいて欲しいということは自分が今普通ではない格好をしているということを暗に示している筈だ。
しかし自分が着ているのは普通…の筈の神官服。
慌てて上から下まで確認したが変と思われる点は見付からず。
訳がわからないと混乱するシエルの手を容赦なく引っ張りピスティは助走を付けてシャルルカンの部屋の扉に飛び込んで行った。


「どーん!」
「うぉっ!?」


まさか飛び込んで来るとは予想してなかったのかピスティとシエルは扉前に立っていたシャルルカンに突っ込んで行くハメになってしまう。
罪悪感の元シャルルカンの上から退くシエルとは対照的にピスティは笑いながらシャルルカンにのしかかったままだ。


「〜!普通にイテーよ!考えろ!」
『ご、ごめんなさい…』
「いやいやシエルちゃんじゃなくて!つかあーもう!!」
『きゃっ…?』


ガッとシャルルカンが掴んだのはベッドシーツ。
頭から覆い被せる様にそれをシエルに投げ、早急にピスティをシーツのなくなったベッドに投げ付ける。


『?』
「嫁入り前の女の子になにさせてんだ!」
「可愛いでしょ?」
「可愛いけどな!!」


なぜかシーツを被せられたのかわからないまま2の会話は続く。
どうやらピスティはシャルルカンが執拗にシエルに視線をやらない理由を知っているようだった。
が、それがわからないシエルからは疑問符が浮かぶだけ。
成り行きを見守りながらシャルルカンはバツが悪そうに頭を掻きながらちらりとシエルと目を合わせた。


「……俺の国エリオハプトではな、ヘソ出しはその…アレなんだよ……」

『…おヘソ?』
「そうおヘソー!」

バッ

『きゃあ!』
「ピスティ!!」
「あっはは〜やっぱシエルに着せて正解だったね!予想通りの反応ありがとう!」


シーツを捲り意図的にシエルのお腹辺りを晒すとピスティは楽しそうにベッドを跳ねる。

シャルルカンの方の事情も分かったところでシエルはさっさとシャルルカンの部屋から出ることにした。
こっちの世界にも文化の違いってあるんだ、と自分の服装を見て改めて思った。
これからは気を付けないと…と扉を背に息をつきピスティが話を終えるのを待つ。
とは言っても最初に聞こえてきたのは シャルルカンの怒鳴り声。
きっとピスティに何度やっても意味のない説教でもかましているのだろう。


「シエル?」
『あれ?シンドバッドさん?』


お仕事は?と聞く前に立てた人差し指を口元にもっていく"それは聞くな"という仕草。


『…また逃げたんですか?』
「いやぁ…シャルルカンに飲み会の話を聞いておきたくてな」
『それなら今ピスティさんと中で』

「……なるほど。その恰好ではシャルルカンの部屋には入れないな」
『あはは…』


事情はなんとなく察したらしい。
苦笑いを返せばシンドバッドがシエルの隣に凭れ掛かる。
中に入らなくていいのかと思ったがここでシンドバッドまで中に入られると流石にちょっと寂しくなる気がしたので何も言わないことにした。


「その服はピスティが?」
『はい。なんでもピスティさんがデザインされたそうです』


服だけで纏う雰囲気はいつもと違う。
長めの裾をひらりと袖を広げてみる。

シンドバッドはその様子を見てふっと笑い、シエルの頭を撫でた。
それがいまだに慣れず、どうもくすぐったくて。


「よく似合ってるぞ」


顔を上げれば見える笑顔も胸がくすぐったくなる。
扉一枚隔てたところにいる2人のところに今すぐ逃げ込みたい気持ちと、嬉しさが同時にこみ上げる。

朝のピスティの言葉を思い出しやっぱり服装にも気を付けようかなと思うのだった。






穏やかな円舞曲

(ばっかお前あんなカッコでシエルちゃん放っといたら誰かに襲われるぞ!)
(なにシャル自分で直視できないみたいなこと言っといて!無責任!これでシエルちゃんが王に襲われでもしたらシャルのせいだからね!)

(…俺はここにいるぞピスティ)





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ヘソ出し肩出し神官服。
イメ画(こんなの)

結構デザイン気に入ってたりします。

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