きょとん、とした瞳で辺りを見回す姿は酷く愛らしい子供の仕草。
しかし問題なのはその仕草をしている人物がシエルという事である。
「…シエル、だよね…?」
「シエルちゃんだわ」
「シエルですね」
『?』
首を傾げて上を見上げるのは間違いなくシエルだ。
シエルは首が痛くなりそうに見える程周りを見渡している。
逆に周りは見下ろす形となっているわけだがそれに違和感しか感じない。
自分たちの膝ぐらいまでの身長しかないであろう程縮んだシエルの体は持ち上げようとすれば片手で抱えられるだろう。
幼子特有とふっくらとした頬はいつもより柔らかそうな上にいつも以上に顔と比べた瞳の面積が大きいのだろう、くりくりとした瞳井で射抜かれては堪らないものがある。
「「「(可愛い…!)」」」
状況判断をするだけの知能もないためか只管首をかしげているシエルが愛らしくて思わず口元を抑える者多数。
しかしまだシエルの発した言葉、ここにいる皆は誰かという問いに答えていないことに気付く。
「ほ、ほら…シエルちゃん、ヤムライハって呼んでごらん?」
『ヤムちゃん?』
「!」
予想外の破壊力にヤムライハが倒れた。
まさかここまで可愛いと言うのか。
子供、恐るべし。
というよりシエル、恐るべしと言うべきか。
倒れたヤムライハをよそにピスティがわーわーとシエルと戯れている。
「可愛いねーシエル」
『ピスちゃん、くすぐった!』
「あぁごめんごめん。で、王様とジャーファルさんは抱っこしないのー?」
『おーさま?じゃふぁ?』
「こらこらピスティ、子供を抱いたまま走るんじゃありません」
呂律がなかなか回らず名前が言えないのか、ジャーファルさん、と言ったピスティの声にまた首をかしげるシエル。
シンドバッドはしばらく硬直したまま悶絶していたがハッと意識を取り戻すとピスティの手から半ば強引にシエルを奪い取った。
「あ!ちょっと王様ずるー!」
「シン。大人げないですよ」
『おうさま?しんー?』
「…シンでいいぞシエル」
『あい!』
デレた。デレデレだ。
一目でわかる程のデレ具合にジャーファルはため息を1つ漏らす。
確かに自分の思い人の幼き姿に何も思わないことはないだろう。
思い人の少しでも見たことのない一面と言うのに弱いもの。
それがこんなにも可愛らしい現実になると尚更、だ。
『しん、しんーっ』
「なんだシエル?」
しかしこの様子ではどう頑張っても親子止まりにしか見えない。
そしてどうにも犯罪臭い匂いがする。
「王様まさかロリコ「いや、違うぞ…これはただシエル自体を愛でているだけであって」
「……」
「何だその眼は」
『しん、ろりこ?』
「違う違うシエル、最後に"ん"を付けなきゃ」
『ろりこん?』
「そうそう」
「違う」
「はい、そこまで」
ひょい、と軽くジャーファルの腕に奪われる小さな体。
片手で抱ける体と言うのは次々に人に抱かれる定めと言うもので。
次はジャーファルの腕に抱かれたシエルがじっとジャーファルの顔を見つめている。
「おぉ。ジャーファルさんが抱くと兄妹に見えるね」
「……くそう」
「なんで悔しがってんですか」
『きょーだい?』
「おにいちゃんってことだよ」
『…おにいちゃん!』
ぱっと笑顔を咲かせたシエルがジャーファルの胸に抱きついた。
「おや、ホントに兄になってしまったようですね」
「くっ…!」
シンドバッドが一人項垂れピスティが笑う中、
お兄ちゃんことジャーファルはどこか満更でもない様子で笑みを浮かべていた。
シンドリア魔力暴走事件簿20
(しんどうしたのー?)
(気にしなくていですよシエル)
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