目の前で崩れ去る人の体。
そして滴る赤い血液。

幾度となく目にしてきたその光景に、今更何を感じると言うのだろう。


「あらやだ、赤ちゃん産めなくなっちゃうわね。
次はどこにいこうかしら」



どてっ腹から滴る女の血が地面に染みを作る。

重力に従って滴るそれ。
重力。それは自然の摂理。
なれば弱肉強食、それも自然の摂理だ。


「シエル…さ、…」
『…』


伸ばされる手になぜか一瞬頭痛が走った。
何を考える必要がある。


―『貴方は、本当は人が好きなんですよね』


そんな筈はない。

私は今この瞬間まで人を憎んで生きているのだから。
私がそれを否定しては私は私でなくなる。

あの器の戯言にまで耳を傾ける必要などない。
私はウリエル。裏の世界に君臨する闇の王。




「死ねメスガキが!!!」




だから私は人間などの死には何も感じることはないのだ。

ズルムッドの手に力が入り女の悲鳴が聞こえた刹那。
大きな影が目の前を見えないような速度で通って行った。

気が付いた時には綺麗にもげていたズルムッドの腕の1つ。
誰も目が見開いたであろう。
それ程に"その人物"のスピードは速く目を疑うようなものだった。



『………誰だ?』



この私の質問に答えたのはその人物ではなく、たった今まで命の駒を握られていた女の声で。


「マスルールさん……!?」


姿を現したマスルールと言う体格のいい男。
なるほど、今の攻撃はこの男のものか。



「お味方?…まぁ何人邪魔が増えようと…"マギ"とアリババ王に、死を!」


しかし気配はあと2つ。男と、女の気配。


『ズルムッド。その2人から手を離したほうがいい』
「え?」


『斬れるぞ』


私の声と共にマギとアリババ王を抱えていた腕が、斬れた。
こいつらはこんな気配すら読めないのか。

思っているよりも先にマギもアリババ王も、どちらの姿もこちら側から消える。
煌めいたのは思ったより細身の黒い剣。



「そいつは困るなァ…。こいつら俺たちの

可愛い弟子なんでね!」



マスルール、ヤムライハ、シャルルカン。
この3人を、私は知っている。


「し…師匠!」



"器"を通して見つめてきた世界の一部にたその人物たちは、間の私からしたら酷く吐き気を催すようなもので。
差し伸べた手の温かさ、優しさ。反吐が出る。

目の前に立っている3人の視線が鋭く光るのが分かった。
何を見つめているのか、勿論私を筆頭としているのはわかっているが私が問いただしたいのはさらに奥。



「嬲ってくれたこと…後悔させるぜ死ぬほどなァ!……それに」



―やってみるがいい



「…シエルちゃんも、返してもらうぜ?」

『……面白いことを言うな』



返すも何も、これは私の体だ。

人間の言う"仲間"とはどれほどのものか。
そしてそれがどれだけ愚かで儚いものなのか、わからせてやろう。





凶器、狂喜、狂気

(にやりと笑った笑みは)
(他が為に突きつけた刃)

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