シンドバッドに話を聞けば、ジュダルは結局何もしないで帰って行ったらしい。
しかしそれはあくまでもシンドバッドの言葉だけで聞いた話だ。
それを信用しないわけではない。

ただ、その何もしなかったということにおいてはシンドバッドの反応を見る限り信用することしかできなかったので、後の事情聴取は回避不可能に近い。

あーあーと自分の声だけを自分に反響させる様に耳を塞いでいるシエルの姿は酷く滑稽だがそれが何かあったということを示している事になぜ彼は気付かないのだろう。


「とりあえずシンドバッドさんが無事だったならいいじゃないですか」
「甘いですねシエル…いくら貴方の体が無事だったとして貞操がどうかは…」

『誰が!あいつにシエルの体を触らせるか!』

「……ほほぉ…」
「…まぁ話はあとで聞いてあげましょう」


―ジャーファルくん。目が、目が笑ってない。

言葉の意味を深く理解していなかったシエルは首を傾げていたが現在は大の大人である姿。
自分の体でそんな可愛い仕草をされても何も嬉しくないと思う反面背筋に感じる寒気にシンドバッドは冷や汗を流す。
このタイミングで元に戻られたら汗を流しているのがバレバレだろう。
なのでシンドバッドは今は全力で元に戻らないで欲しいと心で願っていた。


「ヤムライハ…この薬の効力は?」

「そうですね…飲み薬として調合したものを被ってしまったのでちょっとわからないです…それに今までの傾向からしてシエルちゃんに影響が出るのか王に影響が出るのかすらも予測できないですね」

『…とにかく戻りはするんだな?』
「今までの傾向ならなんらかの形で変化はしそうですけれど…」

「面白いからそのままでよくない?」
「『よくない(です)』」


ピスティの言葉は間髪入れず否定しうんうん頭を唸らせる。


「とりあえず、2人でなんらかのアクションを起こす必要がありそうですね」


まさかずっとこのままだとは思っていないがこの悪循環のサイクルを打破するには何かしらの行動を起こさなければ、という使命感が頭に浮かぶからだが実際はどうかはわからない。
今この事件に関与している2人がぱちりと目を見開いて顔を見合わせる。


「なんらかの…」
『アクション…?』


しかし頭には何も思い浮かばないのが現実。
一体何をすればいいというのか。

しかし周りは腕を組んで頭を悩ませながらも考えに考えたことをとりあえず口に出してみる。



「抱き合ってみるとか」

「いちゃついてみるとか」

「キスしてみるとか」



「はい!?」
『はぁ!?』


「そんだけ息あってるなら大丈夫だって!」

「『何が!!』」



こんな時だけ恐ろしいほど声が重なった。
これが中身の入れ替わった2人のコンビネーションなのか、とそんな悠長なことを言っている場合ではない。
一気に顔に集まった熱が2人の顔を赤くさせる。
そんな様子だけは見飽きた程だと言うのに中身がまさか入れ替わっているとは誰も気付くことはないだろう。

入れ替わったままなのは不便なのはわかりきっている。
故に早く戻りたいと言う気持ちは2人共同じ。

かと言って戻る保証もないのにそんなことをしろというのか。



『……やる、か…?』

「…?」

『何もしないよりかは…何かをする方が…』

「…………」



ごくりと息を飲んだのは誰だったか。
シエルの体、シンドバッドがじりじりと己の体と距離を詰める。

自分の体を見下ろす形となったシエルだったが、その表情は真剣で、目をそらすことができなくなった。



『シエル……』



ジャーファル達だっているこの部屋で、徐々に縮まっていく距離。

待った、と思う暇もなく時間がゆっくり過ぎる。





ボンッ




「…っ、うわっ!?」

「あっ!?」
「えっ!?」
「っ!?」



何のデジャヴか、この現象は何度か目にしているせいで驚きはしなかったものの辺りが見えなくなるのは毎度のことながらいただけない。
今度は何がと慌てて現状を確認しようとするもなかなか前は見えるようにならず。


「大丈夫ですか?シン、シエル!」
「あ、あぁ…俺はどうやら戻ったみたいだ………が…!!」


「あー!!!」

『……う?』


鮮明になってくる視界。
第一にシエル様子に気付いたピスティが大きな声を上げて普段ならジャーファルに怒られるであろう、"シエル"を指さした。

しかしその指は随分と舌を指さしている。
その違和感の発生源、シエルは。




『おねえちゃんたち、だぁれ?』




どうやら、まだまだ苦悩は続きそうだ。




シンドリア魔力暴走事件簿19

(シエルが……!?)
(ちっ、小さくなってる…!?)





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幼女!幼女!
リクエストでもかなり多かった幼女回がやっと書けます…!
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