シンドバッドの人を引き寄せる力はいつからどうして培われたものなのだろうか。
今の今まで少し気になっていたが、やはりそれはシンドバッドそのものの気質、そして育った環境によるものだったのではないかと自分の中で結論が出た。

辛い生活の中。
しかしそれ以上に温かさに囲まれて生きる強い人たち。
どんなに過酷な状況に陥ろうとも強さと笑顔を忘れない。
シンドバッドもそんな人だ。

生きている世界が世界なら、彼は彼らしく成長することだろう。


『遅いなぁ…』


薬を買いに行く、と言ってから既にだいぶ日が傾いている。
いくらこの街がシンドバッドのテリトリーの元だったとしてもシンドバッドはまだ少年。
よからぬことに巻き込まれているのではないかと心配になるのは普通、だと思いたいところだ。

未来の彼の姿を知っているシエルだとどうしても大丈夫ではないかと思ってしまう。
何があっても大丈夫なんじゃないかと思うが今の彼はまだ力を手に入れる前の普通の人間に過ぎない。

床に伏せっているシンドバッドの母の看病をしていたシエルだったが、暗くなってきた外の様子を見て一度立ち上がった。

正直な話、あまり周りのチ地理を理解していないシエルがシンドバッドを探して街をうろつくと逆に迷子になってしまう可能性がある。
ミイラ取りがミイラになってしまっては意味がないだろう。


「シンドバッドったら…まだ帰って来ていないのかしら?」


ぱっと振り向けば小さな咳をして床から体を起こすシンドバッドの母親の姿。
誰の為に今シンドバッドが外の世界へ走り回っているのか。

それは誰でもない血の繋がった母親の為に、だ。

初対面の人間を家に置いてくれる寛大さ。
そしてシンドバッドと同じ強さを持った優しげな瞳がやはり親子を思わせる。
シンドバッドの生きざまを見ていれば彼はこの人に大事にされてきたんだな、とシエルは素直に思った。


「やっぱり悪いわねぇ…私なんかの為に…あの人も、シンドバッドも…」
『そんなことないです。シンドバッド君もお父様もおばさんを大切に思っているから何かをしたいと思っているんです』

「そうかしら…」
『じゃなかったら、シンドバッド君はあんな素直に育ってませんよ、きっと』
「…ふふ…あの子は父に似てやんちゃだから…私としては心配だわ」


どうしてこんな素敵な人が、素敵な人の父が、死ななければならなかったのだろう。
しかしその理由がシンドバッドが力を求める理由とも言える。

そしてシエルは思う。儚げに笑うシンドバッドの母の姿に、やはり家族は思い合ってこそあるものなのだと。


「ごめんなさいねシエルちゃん…」
『おばさんが謝ることないですよ。私がやりたくて、2人を心配したいんです』
「そう…?」

『はい』


シエルは手を取って笑った。
自分の手から伝わる暖かさが、この人の息子を育てたんだと思うと自然と笑みは零れていた。

シンドバッドの母はシエルの笑顔に目を見開き、そして釣られるように笑って言ったのだった。



「ありがとう、シエルちゃん」









シンドバッドの冒険11

(ただいまー!!)
(あ、おかえりシンドバッド君)
(ちょっとガキ共に説教してた!母さんこれ、薬!)
(あらあらありがとう)

貴方に触れる暖かさ

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