降り立ったのはいつも自分が足を運んでいる部屋のはずなのに、その足はいつもと違う。
もう一度その違和感に改めて危機感を覚えたシンバッドが視界に見たもの。


「おっもしれー!マジでバカ殿じゃなくてシエルなのな!!」
「あ、あの…もしもしジュダルさん?」
「すげーすげー!」

『……………ジュダル?』


確かにそこには、自分の体に入ったままのシエルと、ジュダルがいた。
きっとジュダルの力には対応しきれないであろうと慌てて戻ってきた訳だったがそこにいたのはシンドバッドの体をべたべたと触り倒しているジュダル。
それに困惑したシエルと、呆れたように既に冷静を取り戻したジャーファルがそこにはいた訳だ。

恐れていたような事態が起こっていないのは嬉しいのだが一体これはどういうことだろう。
戻って来たばかりで整理も終わらない頭で必死にシンドバッドは考える。


「よーシエル!あ、違ぇかそっちがバカ殿か!」

『…で、お前は何しに来たんだ』
「特に理由なんてねぇよ?ただ暇だっただけだ」
『…暇が理由で結界を壊すな』
「知らねーよんな事」


離しの様子からしてシエルとしドバッドが入れ替わっていることは知っているらしい。
そして先程の様子を考えればその"暇"を潰すような好奇心の先が2人になったに過ぎないようだ。

今度はジュダルがシエルの体、シンドバッドの方へ素足でぺたぺたと歩いて行く。
シエルとシンドバッド。2人を交互に見やってからシエルの髪を少し掬った。


「しっかしマジ面白れぇな。お前のトコの魔道士こんな楽しそうなこともできんのか」
「あれただの事故ですけど」

『あと、気安くシエルに触るな』
「いいじゃねーの。今はバカ殿だろ」
『体はシエルだ』


ぱしっとジュダルの手を払うがジュダルはその顔に笑みを張り付けたまま。


「シエルちゃん、こっちにおいで」
「え、はい」
「なんかすっごい変な感じ。シエルがめちゃ機嫌悪そうだねー」


部屋の隅に控えていたヤムライハとピスティがシエルを呼ぶが、傍から見れば部下に呼ばれてそれに着いて行く王という光景になる。
それを見越してもジュダルは面白さを見出しているのかもしれない。
しかし国に土足で踏み入られた手前シンドバッドは良いとも言えなくて。
あんなに眉間に皺を寄せるシエルを今まで見たことがあっただろうか、恐らくまだ数人ほどしか見たことがないレベルでレアではあると思う。


「でもよぉ、こうしてシエルの体にバカ殿がいるってことは…金属器使えねェんじゃねぇの?」
「『!』」

「なら今力の使えないシエルでもかるーく攫って行っちまえば…」


途中まで言ったところでジュダルの顔の数ミリ先を鋭利な錨が過ぎ去っていった。
そこから伸びる赤い糸。言わずもがな、ジャーファルの眷属器である。


「そんなことをすれば…貴様わかっているのか」
「…ふーん…眷属器も使えねェのか」


新たに分かった事実に笑みを深めるジュダル。
だがこれで分かったのは、ジュダルの言う通り今どちらかが攫われてしまえば抵抗の術がないということ。

いつもなら考えられない小さな舌打ちと共にシエルの顔が歪んだ。

そんなシエルの顎をぐい、と掴んだジュダルがシエルの両腕を拘束する。


『…何をする気だ?』
「心配すんなよ。さすがに煌まで連れてったりしねー……よっ!」

『う、わっ!』

「シンドバッドさん!」
「シン!」


拘束した腕を引っ張りシンドバッド達がここに飛び込んできた時にできた大穴へとジュダルは飛び出した。
浮遊魔法が使えるために落ちることへの心配は全くしていなかったものの、ジュダルに連れて行かれるということに全員の心配心が募る。

慌てて身を乗り出せば絨毯の上に乗ったジュダルと、シエルの体…もといシンドバッド。
下手な抵抗をすれば落ちると分かっているためか抵抗はしていない様子だった。


「安心しろよシエルー!力使えない奴相手とやり合う程俺も暇じゃねェし」


確かに、今のままの2人と戦うというのはジュダルの言う"楽しさ"にはほど遠い。
なら何をするのだろうというのか、そんな心配をしつつもシエルは遠くなるジュダルと自分の姿を見送ったのだった。




シンドリア魔力暴走事件簿17

(あ"ーもう…シン、帰って来てもとに戻ったらカンヅメ決定ですね)
(え…さすがにそれは)

(で、シエルの体ってば何されちゃうんだろうねぇー)
(…!?)

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