ザガンによって選ばれた王の器。
ジンの力を求めた白龍に宿った力に、白龍本人は少し不服そうであったがこれはジンであるザガンが決めた我が力を捧げる主。

自分が無力だと、力を宿す資格などないのではないのではないか。
そう危惧していた白龍にとってこの選択は少し不服でもあった。
アリババやシエル、モルジアナにアラジン。
優れた者が複数いるこの面子でなぜ自分が選ばれたのか。ザガンは自分を使う才能があるからだと言ったがはいそうですかと簡単に理解することもできないでいた。


―『……弱さを認めぬ弱き者よ、刃を向けることに生き急ぐな』


まだシエルが裏のウリエルに支配されていなかった時、表の彼女に言われた言葉。
弱さを認めて、自分は強くなれるだろうか。

先程ザガンから持ち帰る宝を整理していた時に噛みつかれた蛇の噛み跡からじくじくと嫌な痛みを感じた。

もう、終わったのだから。
捕らわれたトランの人々は元に戻り、ずっと一緒に迷宮を着いてきていた少女にも笑顔が戻る。
それでいいじゃないか、と思ってしまう反面助でこの人々を取り戻すための力になれたのかとやはり自分を攻めてしまう所もあった。


「みんな乗ったかー?」


光り輝く大きな魔方陣の上に所狭しと並ぶトランの人々、そしてたくさんの金銀財宝。
意識を失ったままのドゥニヤとシエルもそこに横たわっている。

あとはこのままザガンを脱出し、帰るだけ。

しかし一番今恐ろしいのはシエルが意識を取り戻す事。
ザガンも言っていた。
今の彼女は3つの意識がせめぎ合っていてどうなっているのか予想もできない。


「モルジアナ!シエルは頼んだぜ」
「はい」

「アラジンはそっちの姫さん頼むな」
「うん!」


迷宮を抜けるのは少し時差やズレが生まれる、ということはわかっていたが何とかそれを回避できないかと策を練った結果として、意識のない2人はそれぞれずっと誰かが傍に付いているという案が浮上した。

モルジアナは静かに息をするシエルを見つめ胸がぎゅっと締め付けられる。


「(私は…守ってもらってばかりだった)」


眷属器を発動させて魔力を使い切り、瀕死になっていたところを助けてくれたのは彼女だった。
モルジアナが最後に見たシエルの姿。
最後まで誰かを心配する姿は変わらない。

でも、戦う事しかできない自分に戦う力がなくなったらどうするだろうか。
こうしてシエルの様に意識だけでも戦うことを願うのだろうか。




「さあ…帰ろう!!」




浮上し始めた魔方陣。
ここからはバラバラに元の世界に戻ることだろう。

シエルの手を取っていたモルジアナの意識が、浮上していく空に移る。

輝く光の粒が体を包んでいった。
しかしバラバラの道を光が指し示した時。



シエルの手に、力が籠ったのが分かった。






そして彼女は再び目覚める






―『世話をかけたなザガン』
―「なに、君がそういうこというだなんて」

―『…そうだな。ただのきまぐれだ』
―「うん、それでいいよ。それに…これからは外でも会えるでしょ?」
―『あの少年に宿るとは…まぁ、わかっていたが』
―「だって僕を使いこなしてくれる人じゃないと嫌だしねぇ」






―『ならば私が見極めてやろう』

―「!」



口元に怪しく弧を描いた彼女を、地上に戻る彼らは知らない


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