エイプリルフール。
それは一年の中で唯一おおっぴらに嘘をついても許されると言われている日。

かといってバカ正直にこの日以外に嘘をつかない者はいないだろう。
ただの遊びや冗談として称されるそれに本気で乗っかる者もいれば逆に嘘で返すものもいる。
自分がどの種類に分類されるのかは自分が一番よく知っている。
ということで、シエルはいつも通り嘘をつかない日々を送ろうと思っていた4月1日の話。


「えー、シエルってば何もやらないつもりなの?」
『だって嘘ってあんまり好きじゃないですし…』
「シエルみたいな普段嘘つかないような子が嘘つくから面白いんだよ」


仕事中にやって来たピスティの今日嘘ついた?という質問に首を横に振ったシエルに彼女は声を上げた。
確かに普段から冗談や嘘を言葉にするピスティよりもシエルのような普段は真面目な者が嘘を吐いた方がギャップはあると言える。


「きっと王様とかならコロッと騙されちゃうからやってみなよ〜」
『シンドバッドさんが私なんかの言葉でそうそう騙されますか…?』
「ぜーったい騙される!私が保証しちゃう!」
『そうですかね…』

「じゃあさ!じゃあさ!シエル王様にこう言ってみてよ!!」


シエルの耳に顔を寄せたピスティから囁かれた言葉に、思わずシエルは目を見開いた。

















コンコン、とノックしたドア。
シエルですと声をかければ部屋の主シンドバッドは彼女に入ることを促し、いつものように書類を持ってくる姿を視界に入れた。


『あ、今日はちゃんとお仕事してらっしゃるんですね』
「これが嘘だと言えたら良いが、ジャーファルがそうさせてはくれなくてな」


やはりジャーファルは嘘など付かない人物なのだろう。
対してシンドバッドはピスティと同じく嘘や冗談の類いが好きな人物だからその分今日は大人しい気がする。
持ってきた書類を机に置き、シエルはピスティの言葉を思い出した。

本当に騙されるだろうか?

罪悪感はあるがちょっとした好奇心は湧いてしまう。


『……シンドバッドさん』
「なんだ?」

『…実は…』


ピスティに言ってみろと言われた言葉にそぐった行動として、シエルは右手をお腹に当てて見せた。


『…できちゃったんです』

「……………は?」
『だから、できちゃったんです』


"できた"という言葉とシエルが手を置いたお腹。
それが導き出す答えは1つしかない。

机にペンが落ちる音とシンドバッドが上げた声は同時にシエルの耳に入る。

目を見開くシンドバッドに顔を俯けさせるシエル。
嫌な沈黙が部屋に木霊する、という矛盾が生まれた。

やっぱり引っかからないよね、とシエルが事を説明しようと口を開きかけた時、シンドバッドは身を震えさせながら静かに席から立ち上がった。



「……誰との子だ」
『え?』



まさかと思って間の抜けた声が口から漏れた瞬間にはシエルは両肩をがっしりと掴まれ真剣な表情でシンドバッドと祖先を合わせざるを得ない状況になってしまう。



「まさか俺が酒でも飲んだ時に…!?いやいやそれならジャーファル辺りにもっと何か言われて…もしやシャルルカンか。それともマスルールか。…まさかとは思うがあのジャーファルがそんなことをするとも…しかし人は見かけによらないと言うしな……」

『あ、あの、シンドバッドさん…?』
「それともまさか俺の知らない輩と…!?シエル、どうなんだ…!?」



―ホントに信じてしまった。

シエルは反射的に思いっきり頭を下げてごめんなさいと謝り、やっぱり嘘はよろしくないと思いながらも未だにシエルが言った嘘を拭い去れていないシンドバッドを必死に説得するのだった。





エイプリルフール

(ジャーファル…俺は本当に心臓が止まるかと思ったぞ)
(なら、その嘘を本当にできる様に真面目に仕事してください)
(…嘘を本当に、か)

(いつか、そんな日が来ることを望んでいる俺がいる)

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