『いやー!やはりいいな!なんて爽快感だ!』
「王、シエルちゃんの体でそんな豪快に笑うのやめてください」
体に似合わない笑い声。
しかし声は高いものだから余計に辺りに響く。
沢山の食べ物を抱えたシエル…に見せかけたシンドバッド。
その隣には嫌悪の表情とぐったりとした様子も覗かせるヤムライハの姿が見受けられる。
(ピスティは完全に面白そうに笑っているが)
どうやら見かけとのギャップもあってかかなり疲れているらしい。
「いい加減早く帰りますよ!」
『もう少し!』
「それ言うの7回目だよー」
「シエルちゃんが可哀想です」
シエルという魔法の言葉を使えばシンドバッドの肩がピクリと動いた。
もう少し、とヤムライハは一息ついて見せてシンドバッドにくぎを刺す。
「今頃王のお貯めになった仕事をシエルちゃんは熟してるんでしょうねぇ…」
『……』
「しかも体の方はこんなにはしゃいじゃって…」
『…………帰るか!』
一筋の汗を流して見せたシエルの体からそう声が発された時、自分の住まいである王宮からけたたましい音。
『「「……!??」」』
それに気付かない程頭の奥底は平和ではない。
一瞬で引いた汗に、感じた魔力。
『……ジュダル…!』
なぜこんな時に、と今王宮にいるであろう自分の体の中に意識を持っているシエルを思い出し自分の軽薄さに腹が立つ。
気楽に買い物などしている場合ではない。
突然の騒音にざわめき出す街中で、冷静にピスティは己の持っていた笛に息を吹き込む。
ピィッと通る音が響いたかと思うと空から飛んで来る人よりも一回り大きな怪鳥。
しかし勿論ピスティの笛で操られたそれが敵意を剥く筈もなく。
ヤムライハは持っていた杖に跨り浮遊魔法を。
ピスティとシンドバッドは持っていた持ち物を全てそこに置き去りにし、怪鳥の背中に飛び乗って一直線に王宮を目指す。
『くそっ…なんでこんな時に!』
「とにかく早く!」
「ジャーファルさんがいるとは言え…!」
この現状で頭に過るのは嫌な予感だけで。
いくら傍にいるであろう腹心の部下を考えても、ジンの力も使えないシエルには抵抗の術はないだろう。
もしもこのタイミングでジュダルがシンドバッドの体に何かしようものなら、今はシエルが傷付き、しかし最後にはシンドバッド自身が傷付く。
狂った感情をもつジュダルが面白いと思わない筈もない。
言動や仕草で悟られないようにすることも可能かもしれないが、人を取り巻くルフにはわかってしまうのではないか。
「もう着くよ!」
『よし、降りるぞ!』
現在自分が収まっているのは怪鳥の背中だ。
しかし1秒でも早く、と怪鳥の足に掴まりぶら下がるようにシンドバッドは宙に身を投げ出す。
シンドバッドの体、シエルがいるであろう部屋の窓まであと数メートル。
狙いを定めシンドバッドは怪鳥の足から手を離し、部屋の中へと宙を舞った。
『シエル!!』
ヤムライハ、ピスティも続けて部屋に足を降ろしたが、そこで彼らの見たものは。
シンドリア魔力暴走事件簿16
(((………え)))
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