死ぬ、死なない、ではなく"死ねない"
その言い方に含まれた意味を知ることを、アラジン達は"死ねない"と言う一言で判断することはできなかった。
ザガンはシエルの傍に自身の蔦生やし、シエルの懐にその蔦を滑り込ませる。



「三位一体、って言うのかな。表だろうと裏だろうとウリエルが存在するにはこの"器"が必要なんだよ」



一体何を、と声を出す前にその蔦は懐から姿を現す。


「…短剣…?」
「なんだ、君たちはこれをわかってて渡したんじゃないの?」


呆れたように言ったザガンは短剣をシエルの隣にそっと置いた。

光り輝く金属の鞘に収まった短剣。

アラジンは地に置かれた短剣を一度手に取って全貌を事細かに記憶に刻んでいく。
武器として使ったわけではなさそうに見える美しい刀身。
しかし、八芒星のマークにはどこか見覚えがあって。


「何かが…宿っている…?」
「ウリエルじゃなくてか?」

「察しの通りウリエルだよ。でも宿ってるんじゃない、"封印"されてたんだ」

「…封印?」

「なるほど、君たちが知らないってことはこの短剣の事を知ってる誰かが渡したんだろう」


ことりとアラジンは短剣を地面に置く。


「この短剣は表か裏、どちらかの彼女を封じ込めるための"器"なんだよ」
「「「!」」」

「ま、どういう経緯でそうなったかは知らないけど…この短剣をウリエルの器であるこの彼女に渡した人物はまともなことを考えてはいないと思うよ」


長い蔦がするり、とシエルの頬を伝う。
ザガンは何を持ってシエルを瞳に捉えるのだろうか。

どういうことですか、と問うた白龍にザガンは間を置いて答えを返す。


「この短剣はどちらかを封じている故にウリエルの"夢"の力を実体にする…まぁ簡単に言えば彼女の力を増幅させるものなんだよ」

「…それならただ、シエル殿を心配した誰かが…?」
「だとしてもね、裏の彼女が封印されているものを表の器である彼女に渡すのは普通じゃない」


含みのある言い方で、ザガンは核心を付こうとはしない。
それが彼のいじらしいところと言うか、彼らしいというか。

実体を掴ませないような言い方。
しかし何かを察するには十分なヒントをくれる。
優しいのかそうでもないのか、わからないがそれがザガンという者なのだろう。


「……つまりは今のエルさんみたいになってしまうんだね?」

「さすがはマギ」


表かも裏かもわからず地に足が付かずふわふわと浮いている、そんな状態。
シエルという人物は何者なのか、ウリエルとは一体何なのか。


「下手をすれば君たちの待っている彼女は一生このままになってしまうよ。先に言うけど僕にはどうにもできない」

「同じジンなのにか?」
「僕たちとウリエルは違う似て非なる存在。もうそれくらいはわかってるだろう?」
「…だけどよ!」

「それに、君たちは何をしにここに来たんだい?」


本来の目的。
ザガンを攻略するというその目的を少し忘れさせる程、このザガンの中で起こったことは衝撃的だった。

しかし何のためにと思っていても、彼らは前を向かなければならない。



「彼女を助けたいと思うなら、はやくここを出るんだね」



そういったザガンはシエルを見やる。
その表情に含まれた愛おしさに、アラジンは少し違和感を覚えた。

ザガンは、ウリエルは、シエルは

答えが導き出されたとき、誰も傷付かないでいることができるのか。






存在の無い答えを探す

(例えそれが無駄だったとしても)

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