ドサリと地に伏せた体。
飛んだ意識は夢に引きずり落とされていったのか、それは定かではない。
辺りに輝くのは白いルフだけ。
次に開かれたシエルの瞳は赤か、それとも紫か。

"ルフ"の導き、"運命"の真意

全ては人の生きる道に立ちはだかる糧。
しかしその運命の中でも幸福というものは平等に与えられない。
だから人は争うのだろうか。
その疑問に答えられるのは所謂、"神"という存在なのだろう。
しかしそれ程までに神は全能ではない。

胸の内にしか存在しない実体のない存在は不安要素となって運命に立ちはだかる。



ドゥニヤとシエルが気絶をしていることを確認した3人は傷だらけの体でザガンの宝物庫への道を走った。
今優先すべきはいち早くモルジアナを助けること、そしてその為にはザガンの力が必要だ。

シエルの中に宿っているウリエルがどうなったのか、それは今のままではアラジンにもわからないらしい。
ただ、アラジンは言った。



「エルさんは、強い人だよ」



ただそれだけで、シエルを信じれるような気がして。


「俺たちが信じなきゃ…シエルだって俺たちを信じてくんないよな…!」


息の荒くなったモルジアナも聞こえないながらもその言葉に頷いた、ような気がした。
こんな時、なぜ目の前にゴールがあっても遠くに感じてしまうのだろう。
たどり着いた宝物庫にはそれはそれは目を見張るほどの金銀財宝。
常人であればこれをどう使うか胸を躍らせ、一生を遊んで暮らすほどのあり得ない人生を歩むことを考える筈だ。

しかし今、この現状を打破することができるのは金銀財宝ではない。
ザガンと言う"ジン"
それがなければ目の前に文字通り山のように積まれている財宝などに価値はないのだから。


アモンが指し示した八芒星の紋様が光り輝く宝箱。
早く、とアラジンとアリババが手を触れた時まるで雷が落ちたような衝撃を受けて天に光が立ち昇った。


「誰だ…?王になるのは…」


孔雀のように広がる後姿には見覚えがあった。
彼はこの"迷宮"であり、そして




「我が名はザガン…"忠節と清浄のジン"!!」




形容のしがたい威圧感、アリババとアラジンは感じた覚えがある。
"ジン"という存在の言い知れぬ威圧感は先程緩ませたばかりの緊張の糸をもう一度張らせる。


「…"マギ"よ…」


まっすぐに3人を射抜く視線。
そしてザガンは、ザガンが宿っている宝を探すために地面に降ろしたシエルとドゥニヤの姿をその視界に入れる。
もう一度3人を、いや、マギであるアラジンへ向けてザガンは右手を胸に当ててゆっくりと頭を下げた。


「数々の非礼を、おわびします……」

「「「!?」」」


自我を持った迷宮生物が行った村人たちの呪い。
ジンである彼自身は宝物庫から出られぬ故に、あの暴挙を自分の手で止めることができなかったと。
今まで聞いてきたおちゃらけた声などではない、真剣な声と視線でザガンは頭を垂れていた。

償いにもならないが、とザガンは癒しの力として迷宮の魔力をモルジアナに分け与え、顔色はスッと血の気を取り戻す。
これが、忠節と清浄のジンの力。


「あ…ありがとよザガン!」


希望を見出したアリババの口から素直に漏れた礼をザガンは只管に受け流す。
だがアリババがなぁ、ともう一度声をかけようとした時に凛とした表情であったザガンの声は一瞬で歪んだ。
下劣な表情でアリババに唾を吐き、マギ以外の人間は吐き気がするから話しかけるなと。



「人間はね〜ホンットに嫌いなの〜」



言ってのけたザガンに、アリババは吐かれた唾を拭いながら頭に浮かんだ疑問をまた彼にぶつけることにした。


「ザガン!じゃあシエルは……シエルはどうなんだよ」
「シエル?ウリエルの器のことかい?」
「……あぁ」


"器"という言葉が気に食わないのかアリババはキッと目尻を上げたがザガンは気にすることなく未だ目を覚まさないシエルを見つめる。


「そうだなぁ……彼女が生きるために必要だというのなら好きだよ」

「お前とウリエルはどういう関係なんだ?」
「答える義理はないね」


「じゃあ…今のエルさんには"どちらのウリエル"が宿っているのかはわかるかい?」


「「!」」


どちらの、つまりは表か裏の。
裏の彼女は既に器など浸食したと豪語していた。

ただそれを信じることはできない。

ザガンにはわかるだろうか。
アラジンは、アリババは、白龍は息をのんでザガンの言葉を待つ。
しばしの沈黙の後、ザガンは長い爪で横たわるシエルを指さし、そしてその指をまた違う人物の方へと向けた。


「その娘と、君からは表のウリエルの魔力を感じる」

「モルさんと、」
「白龍から…?」



「彼女は死んじゃいない。いや、正確には死ねないのさ」







終息は救済じゃない

(シエルという器)
(表と裏のウリエルという存在)

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