恨むべきだったのは狂った運命だったのか。
それとも運命の歯車を狂わせてしまった、その運命を生きる者達だったのか。


「イサアク!」
「姫様!」


咲いていた笑顔はいつ枯れたのだろう。

幼き頃に母を亡くし、まるで兄妹のように育って来たドゥニヤ。
国の為に、愛する可愛い妹のようなこの国の姫の為にと剣を振るった剣士イサアク。

ずっとこの関係で入れるなんて思っていなかった。
彼女は王家の姫、彼はこの国に仕える騎士。
ただ、ずっとその温もりに包まれたままに生きていたかった。
そんな少女の願いなど、たかが1人の人間の願いなのだ。

初めて見た彼の涙は、彼女の記憶にはまざまざと刻まれている。
自分の為ではなく国の為だけに仕えろと、きっと一生のうちで数少ない願いの内の1つだっただろう。


「今までありがとう、イサアク


さようなら…」


言葉に込められた別れは幼いながらに決めた2人のけじめ。
共に未来を歩むことはできないから。
それを理解しているからこそ今まで2人は強い繋がりで繋がっていた。

そして、共に足を揃えられなくともその繋がりは消えないと思っていた。




―『私を連れてきてどうするつもりだ、マギよ』
―「"エルさん"は…苦しんでいることに気付かないんだね」


―『当然だ。ドゥニヤとイサアクのように"歪んだ運命"。そして私はいくつもの運命を捻じ曲げてきた』


―「それはちゃんとした本心かい?」

―『質問を返そう。この惨劇を見て貴様はそれを聞くのか?』




頭に流れてくるのは先程と打って変わって切り替わった記憶の場面。

映画のワンシーンのような姫と騎士の関係は終わる。
炎に、闇に、雷に、現実ではありえないような光景はムスタシム王国を破滅に導いた。


「王族貴族を皆殺しにしろーっ!!」


いや、彼女が終わらせたのだから。




―「僕は信じているよ。"エルさん"も、エルさんも、」
―『…』

―「でなきゃ僕たちは、今頃ここにすら立てていない」






「王女はどこだ!?」


マグノシュタット、ムスタシム王国騎士団の裏切り。
王族と言う王族を全て根絶やしにせんと振るわれる剣はなんとも薄汚い血に赤く染まる。


「王女が…いたぞ!!」
「逃がすもんかよムスタシムの王女を!!」

「王族が…死ぬしかないんだよ!!」


歪んだ、歪められた。
偶然、必然。

それを表すには言葉が足りなさ過ぎて。
目の前に広がる戦乱の光景は目に焼き付いて離れない。

血眼になって見つめるのはこの国の未来などではなく。
幼きあの日見つめた未来とはなんだったのだろうか。


「なぜ、死なねばならなぬのですか!?」

「なぜだと?まあ、いうなれば…」


剣を向ける者たちに疑問を投げかけたイサアクの悲痛な叫びなど、まるで蟻のように踏み潰される。

アラジンもアリババも白龍も、
そしてドゥニヤでさえも、

この言葉がどれほど心に突き刺さったのだろう。




「これが、運命だからだよ!!」

『これが、運命だからだよ』









なみだはすくえない

(それはなぜ?)
(答えなら何度でも言おう)

(これが運命だから)

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