ぱちりと開いた視界には先程の記憶の中にあった光景よりも随分と荒廃しているように思う建物の姿。
いや、荒廃したというよりかは人為的に破壊したと言った方が正しい。
ありとあらゆる方法で破壊されたここに地に足をつけて立っているのは5人だけだった。

立ち上がった自分、それを合わせて6人。


「………?イサアク?」


返事をしないそれはただの砂の塊で。
理解ができていないのだろうか、ドゥニヤは自分の持っていた黒い杖を持って困惑するだけ。
どれだけ杖を操ろうが地面にある砂はピクリとも動かない。

"イサアクの形を成す砂人形"はただの砂に成り下がってしまった。


「イサアク…大丈夫よね…!あなただけはずっとそばにいてくれるって…約束したものね!」


もうドゥニヤに戦うことはできないだろう。
夢渡りのせいで少し感覚のずれたシエルの体で、彼女は呟く。


『…永遠などありはしないというのに』


大きな翼をはためかせて5人の真ん中に足を降ろしたシエルの姿に良くも悪くも全員が戦慄した。


「!シエル…!」
「ウリエル様!イサアクが…イサアクが……!」
『そうだな、もう用はない』
「な…っ!?」

『役立たずは消える。それだけだ』


ついにドゥニヤの瞳から零れてくる滴。
なぜルフを黒く染めても、人の涙は白く美しいのだろう。
その姿はアリババ達には困惑の材料でしかなかった。
アル・サーメンとは一体なんなのか、彼女たちを含め一体どんな者たちがいるのか。

無知こそが罪とはよく言ったもので、しかし結局人は無知なのだ。


「この人も…以前の君の友達と同じ…前に進めなくて苦しいんだね」

『苦しい…という感覚は実に人間味のあることだな、マギよ』
「うん。でも…エルさんも"エルさん"も沢山苦しんでいるじゃないか」
『…この私が?』


冷徹に全てを切り捨てるウリエルにそんなものが。
自分ですら問いかけても何を苦しんだというのだろう。答えが浮かんでは来ない。


「苦しんでいるさ」
『何に』

「抗いきれない人との力と運命に、かな」

『力?私の力は闇の王たる力だぞ…?』
「僕の与えられた力は、その力を得た運命すら救う力だよ」


何を言っているんだ、と切り捨てればそれまで。
しかしアラジンは額の八芒星を輝かせて笑顔すら浮かべそうな表情でドゥニヤとシエルと向き合った。


「逆流する魂を救うために…僕はこの力を与えられたんだから!」


―ソロモンの知恵!!


「!?」
『っ…!?』



黒いルフに、シエルもアラジンもドゥニヤも、全ては吸い込まれていった。

逆流する魂。
運命を恨む黒い心が産んでしまった憎しみと言う負の連鎖。
断ち切るための力があるのだとしたら、人はそれに縋り付くだろう。

じゃあその"人"と言うのは、何を定義すればいいのだろうか。




少年、嘘は必要なのだよ

(でなければこの世界は成り立たないのだから)
(それが"人"たる所以だろう?)

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