結局彼は何者だったのか。
その答えはきっと、彼にしかわからないことなのだろう。

きらきらと辺りのルフが輝くのを感じながら、ユナンがいなくなった跡を見つめるシンドバッドの背中を見つめた。
そしてボロボロになった拳をぎゅっと握ったシンドバッドは何かを決意したようにゆっくりと立ち上がる。


『シンドバッドくん?』
「三日後…」
『え?』

「俺はあの謎の建造物の所に行く」
『!』

「でも、軍には入らない」
『じゃあ…』

「俺は1人であそこに行ってやる」


振り返ったシンドバッドの瞳には火が灯っていた。
その瞳にはシエルの知っている彼の面影がある。


「シエルには……ここで待っていて欲しいんだ」


母さんを頼んでいいか、と聞かれシエルは勿論だと大きく頷く。
建前として母親の世話を頼んでいたが、きっとシンドバッドは先程のシエルとドラコーンの話を気にしていたのだろう。
このままではシエルまで巻き込んでしまうと。
どうにかして軍とシエルを接触させないための方法はないかと。

まだ親の温もりに甘えていたいような年頃だろうに、こんな決断ができる。

だから彼は強いのだろう。
だから彼は、この後王へと選ばれるのだろう。

シエルは何も言わなかった。
シンドバッドが自身で決めた道にとやかく言うつもりは毛頭ない。
いくら今目の前にいる彼は自分よりも幼かったとしても、ここで彼を特別扱いしては全ては歪んでしまいそうな気がして。


「俺、母さんもこの国も…いや、国を作ってる人達を守りたい。もちろんシエルも」
『…私も?』

「さっきあいつも言ってたけど…多分今の俺なんかよりシエルの方が強いんだと思う。……それでも、シエルの力は借りたくない。借りちゃダメなんだ」


決意と裏腹に少し震える握り拳。
男の人の意地と言うのは女に理解できないところがある。そんな話をピスティから聞いたことがあった気がする。
こんなところでその言葉の意味を理解するとは思わなかったというのが率直な感想で。


『わかりました』
「あぁ」
『…でも』
「………ぇ?」

『無茶はしないでとは言いません。ただ…帰って来てくださいね』


しかしそれを優しく見送るのが女なのだということもピスティに教えて貰っていた。
小さな体をぎゅっと抱きしめ、シエルは願うように囁く。


「…俺に、守れるのかな」
『大丈夫』
「口だけは大口叩いても、あいつにも歯が立たなかったのに」
『剣の腕だけが強さじゃないでしょう?』
「…」

『シンドバッドくんにしかない武器は他にもいっぱいあるから』


それは私もよく知っている。
だから貴方が守ろうとしているものを私が守っておくから。

君は前を見て突き進んで欲しい。




シンドバッドの冒険8

(シエル、その…2日間だけでいいから剣術を教えてくれないか)
(えっ)
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