シエルは最近自室と書庫を行き来することが増えていた。
自室にはヤムライハやジャーファルに勉学を教えてもらうこともあればシンドバッドが仕事を抜け出して様子を見に来ることもある。
一時は書庫に籠って本を読んだりもしていたが部屋に遊びに来たアラジンがシエルがいないと大騒ぎをしたこともあったので本自体を部屋に持ってくることにしたのだ。


『…欲張りすぎた…かなぁ』


抱えた本の束はギリギリ自分の視界が遮られないぐらいの山。
2回に分けて運べばいいのだが如何せん自室と書庫の距離は結構ある。
どうしても時間がもったいないと思ってしまう。

何度か足元を確認しないでこけ掛けたが廊下に大量の本をぶちまける訳にもいかないのでなんとか踏みとどまった。
せめて誰かと一緒に来るべきだった、と思っても書庫から自室までの半分ほどの道半ばでそれを思ってももう誰かを呼ぶ気にもなれない。

あと少しだし頑張ろうともう一歩足を踏み出し角を曲がるとダッと走ってきた何かに思いっきりぶつかった。


『きゃっ!』
「うわっ!」

バサバサバサ


衝撃で腕から零れ落ちた本が音を立てる。
痛みの走ったお尻を擦っているとワリィ!と飛んでくる声。


「大丈夫か?!」
『あ、…アリババさん…』

「あー…これ、運んでたんだよな?」


しゃがみ込んで散らばった本を集め出したのはシエルとぶつかったと思われるアリババだった。
思われる、ではなく言動からぶつかったのは彼以外にはいないだろう。
本を拾い出したアリババに慌ててシエルも本を拾い始める。

シンドリアの歴史から言語、世界情勢に図鑑まで。
ありとあらゆるジャンルの本をかき集めた本たちは集め出せばなかなかの量であった。


「これ全部読む気なのか?」
『は、はい…一応習ったことも重複してはいるんですがわからないことの方が多いので…』
「すげーな…俺この半分も読める気しねー…」


小さな山になった本を1冊手に取ってパラパラと捲る。
羅列した文字はとても小さく、アリババは見ているだけで頭痛を起こしそうになった。
全部の本が束になり、またこれを運ばないととシエルが腰を上げて本を抱えようとした時、その束の半分はなぜかアリババの腕に抱えられていた。


「全部シエルの部屋だろ?」
『え?そうですけど、あの…』

「こんくらい手伝うぜ!このままだとシエルいつかこけそうだしな」
『う……』
「あ、図星か?」
『……お願いします』


さっきまで何度もこけそうになってただなんて言えない。
悪いとは思ったものの素直にアリババの好意に甘えることにしようとシエルは先程よりだいぶ軽くなった本を自分の腕に収めた。


『アリババさん、どこか急いでたんじゃ?』

「……今から師匠と」
『え!?それなら私なんか放っておいても…!』
「いーっていーって。シエルを放っておいたって言った方が怒られそうだしな」
『でも…』


先陣切って廊下を歩くアリババに後ろからついて行くシエル。
シャルルカンはこの間も待ち惚けしているのだろうと思うと申し訳なさが増してくるのだがアリババは笑顔だ。
そんな扱いでいいのか、と思うけど師弟としてのバランスはそれで取れているのだろう。


『…後で一緒にシャルルカンさんの所行きます…』
「あー……そうしてくれるとちょっと助かるかも」


シエルの申し出にあははと苦笑い。
いくら相手がシャルルカンとはいえアリババからすれば師匠であるし、一応待たせる罪悪感はアリババにもある。
女に弱いシャルルカンならシエルに遅れた理由を言ってもらえばまず怒られることはないと言っていい。
あえて怒られるところがあるとすれば"シエルちゃんと2人きりだったなんて"ということか。

ある意味巻き込んでしまったのはアリババの方で巻き込まれたのはシエルの方だったかもしれない。


「…師匠んとこ行って大丈夫か?」
『?…大丈夫……っていいますと?』
「いや…この前ヤムライハさんと師匠にサンドイッチされて失神してたろ」


言っている間にシエルの部屋に到着して、2人で束になった本を机に置いた。
なんでその話を、と言いたくなったが失神している前にまずシエルは悲鳴を上げていたのでそりゃ気付かれもする。
恥ずかしさがカッと湧き上がってきて顔を俯かせかけたシエルだったがシャルルカンの所へ向かおうとするアリババの後をまた追いながらシエルはつぶやく。


『……と、飛びつかれなければ……』


大丈夫です、と言った語尾は若干小さくなっていった。
シエルからするとこうして着いて行くことも前なら抵抗があった筈。
こう努力をしているシエルの意識を削がないためにも、アリババは笑いながら意気込んだ。


「じゃあ師匠に飛びつかせない様に俺がエスコートしてやんねーとな!」


本当にシャルルカンなら飛びつきかねないのでマジの注意が必要だと思いながらもアリババはシエルのエスコートに気を燃やす。
シエルはそんなアリババに後ろから着いて行っていた距離を一歩、また一歩と縮めて行き、アリババの隣に並んだ。





隣に並んだ二重奏

(ったく…師匠を待たせるとは何事だよ)
(スンマセン師匠!ちょっと困ってたシエルの手伝いしてて…)
(ご、ごめんなさい!私に手伝ってもらってたせいで…)

(……おいアリババお前…なかなか隅に置けねぇなぁ…)
(……は!?)

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