いまだに痺れの取れない右手。
やはり反撃を視野に入れずに攻撃を受け止めたのは間違いだったか。

しかし彼を助けたことは間違いだとは思っていない。

大丈夫だと言ったが一応だ、とシンドバッドに家で包帯を巻かれながらシエルはユナンとシンドバッドの会話を聞いていた。



「なるほど。この国はずっとこうなんだね」
「………あぁ」


パルテビア王国は隣国、レームとの戦争の為に戦える男手を全て召集されているのだと言う。
そのせいで女子供しか見当たらなかったのかと納得したユナン。
だがおかしくなった理由はそれだけではない。
突如現れた謎の建物、迷宮はさらに一王国の道を歪めさせた。

このパルテビア王国とレーム帝国との国境に現れた建物の解析の為、国が招集した兵士は送り込まれている。
しかしその結果、1万人以上の尊い命は、散った。

それが何を意味するのか、14歳の子供ですらわかる。
入隊して国に仕えるということは死ににいくのと同じだということを。


「シエルは…どうする気なんだ?」
『え?』
「あいつに誘われてたろ。しかもお前、現地でお会いしましょうって………」

「君は、行く気なの?」
『…どうでしょう。でも約束は約束ですから』
「あいつら…力さえあれば女でもいいっていうのか…!」


ギリ、とシンドバッドが拳を握ったのがわかる。
こちらの次元でウリエルの力は仕えるのだろうか。
試してないからわからないが先程ドラコーンにも言った通り、扱えるとは言え剣は不得手だ。


「俺は入隊したくない。母さんの為にも……」


ちらりとベッドで眠る母親を見て、シンドバッドは語る。
同時に丁度巻き終わったを見てシエルはありがとう、と礼を言った。


「なら正直に話して断ればいいじゃない。嫌なんでしょ?」


ユナンは笑って言ったが、それが罷り通る程甘い世界でないことがシエルには分かっていた。
それは無理だ、とユナンの言葉をシンドバッドが一刀両断する。
軍事国家であるパルテビア王国で軍に逆らうということが意味すること。
答えは簡単だ。それは"死"という1文字で簡単に表すことができるのだから。


「入隊しても死ぬ 命令を拒んでも死ぬ

この国はもうダメなんだ

終わってるんだよ!」



これが14歳の口から出る言葉だろうか。
王の器が何たるものか、シエルにはまだわからなかったが確かにその片鱗を見た。

ユナンは静かにシンドバッドを見つめる。



「なら…君はあの建造物に行くべきだ」

「?何言ってるんだ、あそこは死ににいく場所で…」








「君はこの国はもうダメだと言った

ならば君が王になるんだ

国を、世界を

その手で変えればいい





君にはその資格がある」




―世界を変える資格。

口から出たその言葉はシンドバッドにもシエルにですらも衝撃を与える言葉だった。

ダメだと思ったなら、変えればいい。
単純なように聞こえてその責務を果たすことは容易ではない。



「行ってごらん。あの塔に。君の望む"力"があるよ」



軽くを言ってのけるユナンは、一体何者なのだろう。
言葉を受けた2人は思ったがシエルは口に出すことはできずシンドバッドがそれを口に出した。



「そしてシエル、君は自分が思うままに道を歩んで大丈夫さ。きっと"彼女"は導いてくれる」



一体何者なんだ、と言った言葉を聞いたユナンは穏やかに。



「  僕は  しがない旅人だよ  」




その場から、消えた。







シンドバッドの冒険7

(夢追いし彼に)
(夢纏いし彼女に)

(幸多からんことを)

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