口から言葉が出ないのは、目の前にいるのが彼女だからなのだろうか。
それとも、


―『こうなることを望んだのは…貴様ではないのか?』


心のどこかで、その通りだと思っている自分がいるからだろうか。
言いたいことはあるのに口から漏れるのは空気だけ。
いつからこんなに声が出なくなってしまったのだろう。

らしくもない。
民たちの上に堂々と王座に君臨するのが自分ではなかったのか。



「なぜ、」
『ん?』

「なぜ、君はそう思う」



言葉にした後に完全に墓穴を掘った、とまた一つ汗が伝う。
ここで本当に確信を付かれてしまえば自分は完全に立ち直れないような、気がした。

彼女は笑う。
シエルの姿が怪しく笑うのは視覚的にも精神的にもどこかおかしくなりそうで。
体の中、みぞおちの辺りがぐるぐると変に渦巻いている。



『なぜ?笑わせるなよ』



カツン、とウリエルはシンドバッドと机を挟んで向かい合わせに立ちはだかる。
ゆっくりと鞘から短剣を抜き、容赦なくドスリと切っ先を机に突き刺した。



『これを渡しておきながらよく言うな』



実体のないはずのそれは机の上にあった紙を貫通し机に深く突き刺さっている。


『この短剣が"夢"の力を実体にする…"私"の剣だということは知っているだろう』


この場合、"私"というのは裏の彼女のことを差す。
そう。夢渡りの力では本来モノには触れることはできない。

だが今まざまざと机に突き刺さっている剣の鋭さは本物であり、シンドバッドは驚きも何もかもを通り越して表情を動かすことはなかった。



『"私"を封印し、それと同時にウリエルの力を増幅させる。それがこの短剣
普通に考えればただ力を増幅させるものと考えていいだろう』



―だが、お前の考えは違う。



『それと同時にこれを"表のウリエル"の主に渡すにはリスクがある。今の私のように"裏"の私に"表"が負けてしまうことだ』



短剣から、黒いルフが噴き出しウリエルの体を取り巻く。



『だがお前は逆にこれを好機と考えた
そもそも架空とも謳われるジン、"ウリエル"を宿す人間などそうそういないからな』


『だからお前は闇に光を飲み込ませ、その闇を払うことで私を滅ぼそうとした』



自分は一体、何を持ってシエルという一人の存在と接していたのだろう。

シエルの宿したウリエルの力を目的にしていたと思っていたこともあった。
それが原因で彼女を絶望に追いやったことすらある。
だがシンドバッドの頭には、優しく自分に笑顔を向けてくれるシエルの姿がまるで走馬灯のように巡っていた。

小さな体でいつも王宮を駆け回り、たまに見せる真剣な顔も、泣きそうになる思わず抱きしめたくなるようなあの姿も。





『こうでもしなければ私は…"闇"は永遠に滅びることはないのだから』





自分は、全て消し去ろうとしていたのだと。








気付いた時、既に貴方は堕ちている

(導いたのは俺自身)
(これほどまでに、自分の戦う運命を呪ったことがあっただろうか)

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