『え!?シンドバッドさん明日が誕生日だったんですか!?』
「あら、シエルちゃんって知らなかったの?」


衝撃の新事実。
といった感じで目を見開いたシエルにヤムライハが逆に驚いてしまったとある日の昼下がり。

こちらの世界ではあまり誕生日を祝ったりしないのだろうか。
はたまたこの情報をくれた彼女が魔法にしか興味がないため無頓着なだけなのか。
しかし今はどちらでもいい。
明日がシンドバッドの誕生日という事実にシエルは驚いて慌てるばかりだった。


『わ、私何も用意してない…!』
「別に気にしないと思うわよ?どうせ明日は王宮に大量のお酒が運ばれてくるから」
「そーそ!国民から王様へのプレゼントだーって毎年すごい量来るもん」


シンドバッドの人望あってこそだろう。
ピスティの言った通り毎年贈られて来る酒はそれはそれは美味しく上等でとんでもない量らしい。


『でも…お世話になってるのに何もしないのはちょっと…』
「ふーん…シエルってば王様に何かしてあげたいんだ?」
『…はい』

「なら、シエルちゃん簡単よ」
「確かにね」
『え?』


ヤムライハとピスティが楽しそうに笑い合い、その後教えられた"シエル流プレゼント"に、思わずシエルは聞かなければよかったと思うのであった。




















「今日はシンドバッド王の生誕祭であるぞー!」

「歌えー!」
「飲めー!」
「騒げー!」



とんでもない熱気と共に始まったシンドバッドの生誕祭。
ヤムライハたちの言った通りこの日は朝からずっと王宮に色々なものが届くのがひっきり無しであった。

酒だけでなく新鮮な果物や肉、装飾品から珍品まで。
王宮が落ち着いたと思われるのはこうして宴が始まってからだった。



『(ど…どうしよう…)』



遠目で人に囲まれるシンドバッドを確認し、シエルは物陰で出ていく機会を伺っていた。
昨日突然聞かされた事実に、時間もお金もなかったシエルにはピスティとヤムライハにもらったアドバイスを実行するほかなかったのだ。


「あれ、シエルちゃんてばなにしてんのこんなトコで」
『きゃぁっ!あ、し、シャルルカンさん』


肩に置かれた手に思わず体を振るわせれば背後にいたシャルルカンが杯片手にひらっと手を振った。
そして上から下までシエルを見つめ、納得したようにあーと声を上げると楽しそうに笑う。


「シエルちゃん、王サマのとこ行きたいけど行けない、でしょ」
『う……』

「ふーん……よっしゃ、なら俺に着いてきな」
『え?ちょっ?!』


グイッとシャルルカンに手を取られたシエルが宴の席へと顔を出す。
その中心、大勢の人に囲まれたシンドバッドの元にずんずんと歩を進めていくシャルルカン。
八人将であるシャルルカンにあけていく道。引っ張られているのだから当たり前だが、シエルは成すがままにそこに連れてかれていた。

シエルを背中に隠し、シャルルカンはへらりと笑みをシンドバッドに向ける。


「王サマー!」
「おーシャルルカンか!飲んでるか?」
「おかげさまで」

「ところでお前、シエルを知らないか?さっきから姿を見ていなくてな」


ぎくり、とシャルルカンの背中でシエルが揺れる。
朝から忙しく走り回るシエルに声をかけることもできず今日という日が過ぎて行ってしまった、とシンドバッドは苦笑い。

声ぐらいかけてくれればよかったのに!と思いながらも今シンドバッドの前に姿を現すのが恥ずかしくて仕方がない。
このまま気付かないのであればそのまま姿を消したいとすら思う。


「そんな王サマに俺からプレゼントです」
「シャルルカンがか?」
「それいけシエルちゃん!」

『へっ!?』


このタイミングで腕を引かれるなんて思ってもいなくて。

不意打ちに引っ張られた腕。
引きずられた体は見事にシンドバッドに飛び込んでいった。


『(なにこのデジャヴ感…!)』
「…シエル!」
「んじゃ、誕生日おめでとさんです王サマ〜!」


爽やかな笑みを残して、シャルルカンは去って行った。
体勢的には膝に飛び乗った形になっているのだが、今シエルはここを動くわけにはいかない。


『え、と…誕生日おめでとう、ゴザイマス…』


俯く顔をおそるおそる上げればお酒のせいだろうか、顔に赤みの増しているシンドバッドと目があった。


「その恰好は……」
『…ヤムライハさんたちに、薦められて……あの、これ預かってます』
「?手紙?」



―私たちからプレゼントです!
―お持ち帰りは駄目だからねー!


「……あいつら…」


くしゃりと前髪を掴むように手で顔を隠すシンドバッドにシエルが首をかしげる。

シンドバッドがその恰好、と指摘したシエルの恰好は普段からは考えられないほど着飾られている。
しかしそれなりに露出が多く見えるところは見えそうだ。


『その恰好でお酌したら、シンドバッドさん喜ぶからって…』

「……じゃあ、一杯貰おう」
『はい!』


机に置いてあるお酒を両手で持って注ぐ。
これが誕生日プレゼントになるかはわからないが、お酒で少しでも楽しんでもらえればそれでいい。


「シエルは飲まないのか?」
『の…飲みません!』
「ハハッ、そうか。残念だな」

『…でも、一杯だけなら』


シンドバッドの膝の上。
バランスがいいとは言えないその上で羞恥心に負けないようにするので精一杯。

だが、今日はそうも言ってられない。
あの言葉を伝えられるのは今日だけなのだから。

机に置いてあった杯を1つ拝借して少しだけ酒を注ぐ。
やはりまだお酒の魅力というものはわからない。
でも幸せを共有するにはこれに任せるのがいいのかもしれない。


『あの、シンドバッドさん』
「なんだ?シエル」






『お誕生日おめでとうございます』





―貴方が生まれてきてくれたこの日に、乾杯。

シンドバッドの持っている杯に杯を軽くぶつけ、シエルはふわりと笑った。









ハッピーバースデー to you

(その言葉と笑顔が、一番のプレゼントだよ)

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