嫌な、胸騒ぎがする。

ざわつく心を抑えようと必死になるがシンドバッドの中の中に渦巻く蟠りは消えない。
なぜこんなにも心がざわつくのか。

シエル達の背中を見送った自分。
それなにのどこかそれを後悔してしまっている自分がいる。
船の護衛を任せたピスティに"アレ"を渡したことが悪い方向に転がっている気がしてならない。

自分の心が一体どこにあるのか、シンドバッドには分からないでいた。







『随分身勝手だな。第一級特異点』

「誰だ?!」






唐突に聞こえた声にバッと振り返る。

誰だとは言ったものの、その声に聞き覚えはあった。
しかし、ここであの人物の声が聞こえる筈はないのだ。

まるでスローモーションのように振り返った視界の先に見える、1人の人物姿。

あり得ない。
だって彼女は、今自分の目の前に立っている彼女は



『誰だとは失礼なことだ』



迷宮攻略の為にトランに向かった筈のシエルなのだから。



「…いや、違うな。シエルではない……ウリエルか」

『今更当たり前のことを言う必要もないだろう。私の体は実態ではないのだからな』



他人の夢に入り込み、夢を実体化する。
これはウリエルの力の一つ"夢渡り"。

この際誰の夢に入り込んだかはどうでもいい。
今はウリエルという彼女が存在している現実をどう受け止めるかが問題だ。
目の前にいるのがウリエルならば、その主であるシエルはどうなったというのか。

導き出せる答えはまともなものじゃなくてこんな時ジャーファルに判断してもらいたいと思ってしまう自分に叱咤する。



『今お前が思っていることを当ててやろう』
「な…!」

『この体の主がどうなったか……そうだろう?』



シンドバッドの額に一筋の汗が伝う。
心の内を当てられたからではない。


「シエルは……」


ただ、彼女の赤い瞳に射抜かれて動揺してしまった自分と最悪の事態を頭に浮かべてしまった自分。
とにかく自分のバカな考えしか浮かばない頭に恐ろしさすら感じた。


『負けたさ。私の力に』
「…!馬鹿な!!」

『あの餓鬼共もそうだったが…皆口を揃えて現実を受け止めようとしないのだな』

「当たり前だ…受け止めて、たまるものか」


ギリッと握った拳。
ウリエルはその拳を見てふっと笑みを零す。

懐に手を突っ込み、するりとその手に収められていたものを見てシンドバッドは目を見開いた。



『しかし』



きらりと光る刀身には見覚えがある。
そうだ、あれはピスティからシエルに託した筈の。




『こうなることを望んだのは…貴様ではないのか?』

「……!」




八芒星の光る短剣は

まるでシンドバッドを責めるかのように黒く輝いていた。







幻想だと嘘をつけたならば

(どれだけ楽だっただろう)



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補足:夢渡り

他人の夢に入り込んで実体化する、という大雑把な説明でしたが実際には
実体化したい場所付近にいる人間を1人夢に誘い込む(眠らせる)ことでその夢に入り込み、その夢から実体化する
(ただし夢から実体化した体はあくまでも"夢"なのでものに触れたりすることはできない)

こんな感じです
わかりにくくてすいません

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