人を殴るなと子供たちにもう一度お説教をかまし、子供たちに気絶させられた謎の人物は現在シンドバッドの背に背負われていた。

中性的な顔の整った男性。
色素の薄い髪が長く細い三つ編みにされそれはもう地面にも付きそうな長さである。

緑色の長い帽子はヤムライハの被っているようなものにも見えてマグノシュタットの人か、とも思ったがシエルの頭でその考えは消えた。


『(なんだか、ルフが騒がしい)』


この人を取り巻くように輝くルフが思考を否定させる。
ルフは嘘はつかない。悪い人でないことは確かだ。
シンドバッドにルフは見えていない為、彼にとってこの謎の人物は亀の甲羅から出てきた"変な人"だろう。


「にしても…一体なんなんだこいつは…」
『まぁ…悪い人、ではないんじゃないかな…』

「…変な奴」


その言葉は全くもって否定ができない。
シエルは苦笑いしか浮かべることができず、1人背負ったまま薬を買いに行き自宅への帰路へ着いていたシンドバッドの隣に並んでいる。

結構な体格差があるのによく難なく抱えられるな、と感心しながら地面を引きずりそうな髪を少し掬ってみた。
シンドバッドもそうだがこの世界には髪が長い人が多い。
文化なのだろうか。シエルはシンドバッドの代わりに腕に抱えた薬をぎゅっと抱きしめた。


『?』
「どうしたシエル?」

『あ、うん。なんでもない』


背負われた彼の周りを舞うルフが、シエルの周りをきらきらと舞った。























「シエルは座ってろよ。ちょっと飯作ってくっから」

『あ、ごめんね。じゃあ私この人のこと見てるから…』
「おう。頼んだ」


足を踏み入れたシンドバッドの自宅にシエルは緊張していた。
王宮でシンドバッドの自室に入ることはあろうとも、それは"自宅"とは少し違う。

床に転がされた頬に殴られた跡がくっきり残る人物を見つめる。
不思議な雰囲気を纏った彼は、いったい何者なのだろう。
目を覚ませばなぜあんなことになっていたのかを含め話してくれると信じシエルは薬を傍らに置いて濡らしてきた布を頬にあてた。

―そういえば、シンドバッドの母親はどこにいるのだろうか。

きょろ、と見回せばすぐに居場所は発覚した。
カーテンで仕切られたベッド。
きっとこのカーテンを開けばこの薬を届けるべき人物が今は眠っているのであろう。


「う……」

『あ、大丈夫ですか?どこか変なところとか…』
「……きみ…は…」


うっすらと開いた瞳はとても澄んだ色をしていた。
体を起き上がらせればぱさりと頬から落ちる濡れた当て布。
シエルと視線が交わりその視線から目が離せなくなる。

やっぱり綺麗な人だ、とシエルが一瞬気を取られたが、少し眠たそうな垂れた瞳にシエルを映した彼は思わぬことを口に出す。





「…ここの世界の人じゃないね」





『…え?』

「飯できたぞー!」



大きな鍋を持ってきたシンドバッドがやってきて起きたのか、とその場に腰を下ろす。
完全に今の話を聞くタイミグを逃してしまった。
シンドバッドがいる前で彼の話の続きを聞く気にはなれない。

鍋に続き3人分の器とスプーンを持ってくるシンドバッド。
既にシンドバッドは彼に話を聞く気満々だろう。

シエルはその流れに身を任せることにした。



シエルを一目でこの世界の者ではないと見極めたあの澄んだ瞳。
彼は、一体何者なのだろうか。






シンドバッドの冒険4

(シエルも食えよ)
(あ、ありがとう)

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