兄、と慕われている彼にあぁやっぱり彼は幼き日のあの人なのだろうと笑いが込み上げた。
3人の子供たちは怒るシンドバッドに思わず並んで敬礼をしている。
シンドバッドの一歩後ろで笑うシエルの姿に子供たちは疑問符を浮かべ兄ちゃん兄ちゃんと声を上げた。


「に、兄ちゃん!このねーちゃんは?」
『え?』
「あぁ、シエルのことか?」
「兄ちゃん女の人捕まえて何する気だよー!」

「お前ら!シエルは今日ここに来たばっかなんだ!そんな事してると海から罰してもらうからな」


もう一度怒鳴ればまた縮こまる子供たち。
そこまで怒らなくても、とシエルはシンドバッドを諌めたが彼には彼なりのけじめを持っているらしい。

シエルは子供たちの後ろで動かなくなっているカメの元へ向かい、その甲羅を撫でる。


『大丈夫?もういじめないから出ておいで〜』


なかなか大きいカメだな、と思ってシエルは優しく声をかけた。
言葉が通じるとは思っていないが何かしらいじめられて心を痛めているなら少しでも慰めになればいい。
そう思ってしゃがみこんで声をかけたが流石に反応はない。

頭でも手足でも出してくれればいいのに、シエルが思っているとシエルの後ろで子供たちがシンドバッドと話している声が耳に入る。


「う、うん…でもさ…」
「こいつがキモイんだよ…」
「気持ち悪いも何もただのカメじゃ…」


ぬちゃあ


―!?


声を上げなかった自分をシエルを褒めてやりたいとすら思った。

いや、あまりの現実離れしたことに声すら出なかったとでも言おうか。
大きな甲羅の下から出てきたのはシエルが望んだカメの手足。
……ではなく、どう見ても人間の手足だった。


『ひ……人の手?』
「な、なんだこいつ?シエル、こっちに」
『う、うん』

「だから言ったんだよキモイって!」
「兄ちゃん確かめてみてくれよ」


シンドバッドに手を引かれ後ろに下がったシエルとは逆にシンドバッドはカメに一歩近付いた。

手足と共に流れてきた水のようなものも気になる。
甲羅の中に貯めていた水だろうか、しかしそれにしては不自然なぐらい地面は水浸しになっている。

そっとカメに手を伸ばすシンドバッド。
シエルも子供たちもその様子を息を飲みながら見つめていた






かぱっ


「かめぇぇ〜〜…」



びちゃぬちゃあ
しくしく



いや、しくしくという可愛いものではない。
甲羅の中から現れた人物から流れる滝の様な涙がびちゃびちゃと音を立ててまた地面に水たまりを作っている。

―カメの鳴き声は"カメ"じゃない。

しかしそんな事どうでもいいというほどに目の前の光景が恐ろしくてそこにいた全員が視線を凍らせた。




「うわああぁあぁぁあ!!!」
『きゃああぁあぁぁあ!!!』



ボコッ



呆然と叫んでいる間に、気持ち悪いと思わずこの人物に殴りかかってしまった子供たちを引き留めるのに少し間が開いてしまった。
泣きながら甲羅から出てきた人物が、この後彼の人生すらも変えてしまうとは知らずに。





シンドバッドの冒険3

(だ、だめ!どんなに怪しくてもいじめはだめ!)
(かめぇぇ〜〜……)
(キモイ!)
(あ、こらお前!)

(………気絶しちゃった…)
(…俺の家連れてくか)

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