パルテビア王国。
話を聞けばここはそういう名前の国らしい。

シンドリアじゃ、ない。
いや、なくて当たり前なのだろう。
シンドリアはシンドバッドが迷宮を攻略した後に建国した国。
そのシンドバッドがまだ幼いのだから当然と言えば当然のこと。


『シンドバッド…くん、は今何歳なの?』
「俺は今14だ。シエルは…俺よりか年上か?」
『うん。今17』
「なら3つ上なんだな。あんまりそうは見えないけど」


くん付けで名前を呼ぶのがもどかしくてしょうがない。
ついでに未だに目の前の彼があのシンドバッドであり、後に自分の思い人になるとは余計に信じられないでいた。

シンドバッドが最初の迷宮、バアルを攻略したのは14歳と聞いたことがある。
今金属器を身に着けていないところを見るとまだ迷宮は攻略していないのだろう。


「シエルも大変な時にここに来ちまったな」
『え?』


ジャラッと音のする麻布の袋を懐に仕舞い、シンドバッドはシエルを見やった。

先程話を聞いたがこのころの彼は船頭の仕事をもらって生計のやりくりをしているらしい。
幼き頃から何かの上に立つことをしていたのか、とシエルは将来の彼の面影を見た。

眼光に宿る強い光も強い意志もずっとその瞳に宿ったまま。


「今この王国は突然現れた謎の建築物に狂わされてる」
『!……もしかして、レームとの国境に?』
「なんだ。シエルも知ってるのか」

『……風の噂で、ね』


ホントは貴方から聞いた。だなんて言えるはずもなく。
世間を騒がせていることならば知っていてもおかしくないだろうしシエルはうやむやにはぐらかすことにした。

迷宮は出現している。しかしシンドバッドはまだ迷宮を攻略していない。
この世界の時間軸の把握はできた。
だが今後の身の振り方をどうするか、シエルは考えあぐねていた。

この世界が夢、だと仮定してシエルがシンドバッドに深く干渉し未来が変わらないとも限らない。

どうする、ずっと考えていたシエルの目の前にくりっとした大きな金色の瞳が覗く。


『ぅひゃぁっ!?』
「?なんだよ、ぼーっとして」

『え、あ、ごめんね。ちょっと考え事を』
「ま、いいけどさ。そういやシエルって行く宛あんのか?」
『……あ』


今すぐ現実に戻れるのが一番いいがいつその時が訪れるかはシエルにもわからない為に余計に困る。
考えることが新しく増えてしまったとシエルが息を付けばそれを行く宛てがないと捉えたシンドバッドがじゃあさ、とシエルの肩を叩く。


「とりあえず俺のトコ来いよ。母さんなら許してくれるだろうし」


母さん。

その言葉がシンドバッドから出るのが意外でシエルは少し目を見開いた。
そういえば、自分はシンドバッドから家族の話を聞いたことはなかった。
シンドリアの国民が家族だとはよく豪語していたが実際に血の繋がった家族の話を聞いたことはない。

シエルがそういった事に恐怖に近いものを感じていたからだろうか。
思い出してみれば自分に気を使っていたのかとすら思う。


『え………っと…迷惑、じゃない?』
「あぁ。ただ帰る前にちょっと薬を買いに行かせてくれ」
『それは構わないんだけど、薬…ってことは』

「……あぁ。母さんはちょっとした病気でさ。今日はおやっさんがイロ付けてくれたから」


薬が買える、と笑うシンドバッドにシエルの心はひどく締め付けられるような思いを感じる。
本当にこの世界が事実であったシンドバッドの過去であるとは限らないが、この世界が嘘をつくことはないとシエルが確認に近いものを持っていた。


いつもなら見上げるほど高い身長のシンドバッドな筈なのに。
でも今隣にいる少しだけ背の高いシンドバッドと肩を並べて。

見たこともないシンドバッドの故郷を共に歩いて。

1つだけ言えることがある。




「こら、お前ら!海の男が海の生き物をいじめるんじゃない!!」

「あ!!シンドバッド兄ちゃん…!!」




いつどこに彼がいようと、彼は彼のままだという事






シンドバッドの冒険2

(子供たちに向かっていくその背中は)
(今も昔も変わらないんですね)

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