仲間に武器を向ける、とはどういうことを指し示すのか。
繋がっていた思いの決別、敵対。マイナスな思考が頭を埋め尽くす。

その考えを断ち切るように白龍はギュッと掌に力を入れて槍を握り直した。
武器を握る白龍の手は少し震えている。
しかしこの武器を構えていなければ自分は正気を保てないのではないかとすら思った。

横目で後ろを見れば自分以上に怯えを感じ、震え、涙を流す少女。力を無くし倒れているモルジアナ。
アラジンとアリババはアル・サーメンの脅威と対峙している。
今は自分が2人を守るしかない。
伝った一筋の汗にシエルは笑みを浮かべた。


『どうした?その武器は飾りか?』
「くッ…!」


『人とは脆いものだ。頭で理解してもこうして私に武器を振るえないでいる』

「違う!俺は…シエル殿を信じている…」


あの心の強い女性(ヒト)がそう簡単に負ける筈はない。
まるで自分に言い聞かせるように身を震わせる白龍。

目の前に立っているのはシエルなのに。
顔に張り付く笑みはシエルのものではない。
暖かさなど微塵も感じない冷たい笑みが白龍を貫きぞくりと寒気が駆け抜けた。



『…信じるモノがあるから人のココロは折れるというのに』

「なに…?」


『……弱さを認めぬ弱き者よ、刃を向けることに生き急ぐな』
「!」
『"ワタシ"はそう言っただろう?』



心臓があろう胸のあたりを指さしその行動が指し示したのはもう1人の存在。
シエルは、表のウリエルは。

わからない、理解が追い付かないことが多すぎる。
それなのに戦いの火蓋は切って落とされてしまっている。


『見ろ』
「な……」

『君のお友達はここで死ぬだろう』
「…あれは…!!」


黒い魔人。
そう形容するのが正しいとも思えるものが見える。

あれが人だと言うのか。
先程までアラジンたちと対立していた筈のドゥニヤの姿が見えない。
それだけであの黒い魔人が彼女だと結び付けるには容易いことだった。



『ソロモンのジンは白いルフを。闇のジンは黒いルフを』
『組織が作り出した闇の金属器…そして闇の王たる私』

『闇のジンは私により作られた』



「!」



『その力にひれ伏せ、惑うがいい』



次の瞬間、シエルの体は地に伏せた。
何があった、と理解も間もなく白龍の手から槍が滑り落ちる。

"恐怖"という感覚に呑まれなにもできなかった。

地に伏せたシエルの体。
意識があるのかないのか、多分ないと思われる彼女にそっと近付きその体を揺する。
閉じられた瞳は開かず穏やかな表情をしているだけ。
数刻前まで見ていたシエルと、なんら変わらない。

次に瞳が開かれたとき、その色は赤か紫か。



「!早くアリババ殿達に加勢を…!」



背後から聞こえた轟音に意識を浮上させた白龍が再びモルジアナを見やった。
トランの少女もそれに着いて行こうと己を奮い立たせる。

しかし横たえるシエルをどうすればいいのか、頭を悩ませたが白龍は一度モルジアナを降ろしてシエルの体を壁にもたれかけさせた。
今はその瞳を開かないで欲しい。
できれば、彼女が闇の王だなんて認めたくもないのだから。

白龍は意識のないシエルに背を向け、安全なところを探して走り出した。



しかし忘れてはならない。

彼女闇の王であり、夢を操るジンでもあるということを。






運命を傍観する者

(運命は流れていくモノ)




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ソロモンが光のジンをつくり
ウリエルが闇のジンをつくった

この闇のジン、金属器についての設定はオリジナルです
マギ本誌の本編の流れによって修正が入るかもしれませんが今の段階ではこの設定で行こうと思います
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