姿かたちでなく、まさか無意識とまで言える習性まで猫になっているとは思いもよらなかった。
面白げにどこからともなく持ってきた猫じゃらしを片手に持つピスティ。
それに半ば無意識に手を出しているシエルの姿はなんとも言えない。
我ながら情けない姿だと思いながらも目の前でゆらゆら揺れる猫じゃらしから目が離せずにいる。
「面白いね〜」
『…ならこれを振るのをやめてください』
「やーだよー面白いし。ほい王様!」
「お?」
『!』
笑うピスティからシンドバッドへ、猫じゃらしが回されシンドバッドの手に揺れる猫じゃらし。
シエルはハッと目で追った後に飛びつきたい衝動に駆られたがこのまま飛び込めば完全にシンドバッドの胸に飛び込む形となってしまう。
人としての理性の方が上まったシエルとしてはなんとか留まったものの猫としての頭の中では猫と人がせめぎ合っていた。
勢いよくシンドバッドに背を向けて自分を誘惑するそれを見ないようにする。
―見なければなんてことない。
シエルはそう思ったのだがシエルが背中を向けたことによりシンドバッドが少ししょげてしまった事にジャーファルは憐れんだ。
「子供ですかあなたは」
「…せっかくだからシエルと戯れたいだろう」
「猫じゃらしをぶんぶんさせないでくれますか鬱陶しい」
「シエルってば偉いえらーい。誘惑に勝ったね〜」
『…ピスティさん…どこまで私で遊ぶ気ですか…』
「え?とりあえず元に戻るまで?」
『……』
ヤムライハにいい加減元に戻る薬を作って欲しいものだ。
もう少しでできる、と言っていた彼女の姿は今は見えず。
『ヤムライハさん早くしてください…』
「いいじゃん。シエルちゃん可愛いぜ?」
『う、嬉しくないです』
本来あるべきではない第二の耳、猫耳の間にシャルルカンの手が置かれる。
しかし元からなのか猫になったからなのか頭を撫でられるのは嫌ではない。
少し目を離したスキにピスティは窓辺に駆け寄り、何かを頼んでいたのか鳥から何かを受け取っていた。
ピスティの動物と心を通わせる術は本当に特異なものだろう。
使い方によっては良くも悪くもなろうその能力だが、彼女の手にかかれば悪戯の準備にもうってつけ。
「なにを頼んでるんですかピスティ?」
『…?木の実……?』
「へへっ!シエルシエル!ちょ〜っとこっち来て」
『え…っ……?……!…』
掌に持っていた数個の木の実のようなものに顔を近づけ、正体を確かめようとした。
が、その判断こそまさにピスティが狙っていたこと。
シエルの表情が一変して変化する。
天を向いていた猫耳が地面に垂れ、顔は先程より少し赤い。
「シエル、大丈夫か?」
『あ……』
一瞬ふらついたシエルの肩を抱いたシンドバッド。
その手にはまだ猫じゃらしが握られていることを忘れてはならない。
『ねこじゃらし……〜』
「!?」
「お、酔った」
謎に間の伸びたシエルの声に目を見開いた辺りに、ピスティは楽しそうに笑って見せた。
酔った、その言葉が指し示す通りシエルはまるで酔ったようにシンドバッドに、猫じゃらしにすりすりとすり寄っている。
シラフのシエルでは絶対にしないであろう行為は酔うという言葉に結び付ける要因となる。
だがシエルは別に酒を飲んだわけでもなんでもない。
やったことと言えば、ただピスティの持ってきた木の実に顔を近付けたぐらい。
「まさかピスティその木の実…!」
「?結局それなんなんだピスティ?」
「マタタビ」
やっぱりか、ジャーファルがピスティの掌に乗っている木の実を全て没収した。
「あー!」
「あーじゃないです。見てくださいあのシンを」
「王サマ?」
ピッとジャーファルが指差した先。
顔を真っ赤に染めたシエルがシンドバッドの胸元にすり寄り、あろうことか喉を鳴らしている。
そして同じく顔を少し赤く染めたシンドバッドが呆然と立ち尽くしていた。
七海の女たらしとも言おうシンドバッドが女性に対しこのような反応をするとは。
『んにゃ…シンドバッドさ…』
「!」
シエルの一言、仕草に肩を震わせる様子は酷く滑稽だ。
「…やっぱシエルは面白いよねぇ」
「酒で酔っても王さまには引っ付かないのに…猫じゃらしのせいか…?」
「…どの道、シエルが早く元に戻ることを願うだけですね」
シンドリア魔力暴発事件簿11
(マタタビの酔いを覚ます方法ってないのか…)
(珍しいですね。シンがそんなことを言うとは)
(…俺の理性が持たん)
--------
リクエストより「マタタビで酔わせてみる」
いただきました(´ω`*)
_