目の前に立ちはだかる敵、「アル・サーメン」
そしてシエルに宿った「闇の王・ウリエル」
「エルさんが…闇の王…?」
「ウリエル様と仰った方が身の為でしてよ?」
「うっせぇ!シエルがそう簡単にジンに身を飲まれるか!」
『気付いてなかったというのか?この娘の放った言葉が、迷宮生物を狂わせていたことに』
「!」
『ウリエルの力もない筈の生身の人間の声が迷宮生物に届く筈はない』
『既にこの娘の体はジンである私に浸食されていたのさ』
"ジン"が作り出す"迷宮"の中。
それを操れるのはまごうことなき、"ジン"だけ。
「そいう言えば…ザガンの歌によって操られていた生物もいた…」
『その通りだ少年。同じ"ジン"たる私にもその力はある』
それがなにを意味するのか。
ウリエルの言う通り、シエルが闇の力に侵されていたという事実がそこにはある。
狂暴化した迷宮生物が大人しくなったのも、全てはその事実に繋がっていく。
「じゃあシエル殿は一体…!?」
『お前たちの知る"シエル"も"ウリエル"もここにはもう存在しない』
「…それなら……あの2人はどこに行ったんだい?」
『……さぁ。私達を倒してから考えたらどうだ?ソロモンの子よ』
―それがお前たちにできるか、私は知らないがな。
怪しい笑みは明らかにシエルのものではない。
それは頭では分かっている。だが心が否定をしてしまう。
ザガンを攻略するには彼ら、彼女らを倒さなければならないというのか。
そして脳裏に過る、バルバッドでの惨劇。
多くの命を亡くし、大事な友を失い、そしてそれを嘲笑っていた存在…アル・サーメンがいたということを。
「我々が証人と身分を偽ってトランの島へ入ったのはね…"ジン・ザガン"を手に入れるため……そして、君たちがシンドリア王国を離れた今こそが好機だからさ」
「……!?」
岩の欠片がふわりと宙に浮いた。
明らかに人為的に働いた異端な力。
『"ソロモンの知恵"とアリババ王の命をいただこう』
そしてシエルは笑う。
『やれ。ドゥニヤ』
「はい」
ドオッ
シエルからドゥニヤへ。そしてドゥニヤの命令から再び襲い掛かる岩の龍。
アラジンの魔法壁を盾に後ろへ退避しなんとかその攻撃を受け止める。
しかしここを戦場にするには非戦闘員である少女と、力を失ったモルジアナがどうしても危険にさらされてしまう。
力を持たぬ2人を安全な場所へ、と白龍に頼みアラジンとアリババはまずシエルではなく岩の龍に佇む3人へと武器を向けた。
「アリババくん。エルさんは絶対に帰ってくる」
「ったりめーだ!俺は絶対に認めねぇぞ」
「だから…僕たちが倒すんだ」
「!」
「"アル・サーメン"を、打ち倒そう!」
「あぁ!」
信じている。
シエルは絶対に闇なんかに負けはしないと。
今、倒すべき相手は決まった。
例え相手が誰であろうと勝たなければ、"ザガン"を取られ生きるどころかここから出られなくなってしまう。
自分たちは勿論、植物に変えられたトランの人々ですらも。
『…ドゥニヤ』
「なんでしょうウリエル様」
『こっちは任せた』
「仰せのままに」
シエルの背中に光の翼が生える。
しかし今までに見たことのない、それは怪しげな黒い光を放つ翼。
ふわりと浮いたシエルの視線が捉えていたのは、白龍とモルジアナ、そしてトランの少女だった。
終焉こそきみに相応しい
(全ては私の手で)
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こっからかなりハショります
11巻の内容は殆どないと思っていただいて結構です
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