モルジアナは昂揚していた。
目覚めた己の力。
自分たちを引きずり込んだ迷宮生物を燃やし尽くした炎は紛れもなくその証であった。
幼き頃、自分を縛っていた鎖が自分の刃となる。
なんという皮肉な、しかしなんという運命なのだろう。
「私…私…」
モルジアナの頭にあるのはこの力をこれからも自分の守りたい人に奮えるということ。
その高揚感。しかしぎゅっと握った拳からは力が抜けていく。
「みなさん…私…やりました…!」
血走った赤い瞳から血が零れ落ちる。
薄れゆく意識の中、モルジアナが見た幻想はその力を褒め称えてくれる仲間。
しかし最後に聞いた声はモルジアナを昏倒の中へと導いて行った。
―『やはりこうなってしまったか。無茶をする』
―「貴方は…」
―『しばし眠れ。私が力を与えてやろう』
完全にモルジアナの意識が遠のいた時、両腕に嵌められた金属器が光を発した。
何かが焼けた焦げ臭い匂いが穴の上にまで充満する。
お世辞にもいい匂いとは言えないその匂いは戦いの決着を意味しており、3人がモルジアナの身を案じて穴を降りればそこにいたのは血を流し身を伏せる彼女の姿。
屈強な体を持つモルジアナは見るからに衰弱していた。
「何があったんだ!?モルジアナ!!」
意識は薄く肩で息をし、起きることもままならずアリババに身を支えられている。
「モルさん…魔力が切れかかってる」
「え!?」
モルジアナの身の変化を一番に感じたのはアラジンだった。
血をふき取り、異変の理由に気付けばさらに今の状況が危険かということを理解し恐ろしくもなる。
先程の、この魔物を焼き尽くした力のせいでモルジアナの魔力は切れかかっていたのだ。
人間1人の持つ魔力量は人により変わる。
ただでさえその魔力量の少なかったモルジアナには体にかかるリスクが高過ぎた。
そして何より恐れるべき事態。
一瞬で大量の魔力を失ってしまうと命を失いかねない。
衰弱しきったモルジアナの自力での回復はすでに不可能となってしまっていた。
ただちに医者に見せなければ彼女の命はないとすら伺えるであろう。
しかしモルジアナは立ち上がろうとした。
自分の腕で自分を支えては地に伏せる。
「私…私…まだっ…」
「モルさん、動いちゃダメだ!」
「私は……また…助けられて、しまったんです……」
「助けられた…?誰にだ!?」
辺りには自分たち以外誰もいない。
一体この状況で誰が助けてくれたというのか。
力なくもう一度地に伏せてはアリババにその身を支えられ、モルジアナは声を絞り出す。
「シエルさんが…ウリエルが……私に…」
「「「!」」」
一度意識を飛ばす直前、金属器から流れ出すように体を巡った力は確かにこの場にいないはずの人物のものだった。
「そうか…モルさんがなんとか動けるのはエルさんとウリエルの魔力のおかげだったんだ…!」
「まさか!?そんなことが…」
「いや…さっきもエルさんはお兄さんに魔力を分け与えていたよ」
「もしかして…さっきシエルと別れる前にウリエルがモルジアナにしたのって…」
他人に魔力を分け与える、ということは容易にできるものではない。
それ以前に、人間の魔力というものは他人の魔力とは本来相容れない存在。
異なる2つの魔力がそれぞれの意思でバラバラに暴れればその身は引き裂かれやがて命を落とすだろう。
しかしシエルにはそれができた。
自分の魔力を他人の魔力に変換し、分け与える力があった。
これを見越してウリエルがモルジアナにその力を宿していたのだとしたら、
何も言わずにモルジアナの金属器に力を与えたウリエル。
しかし魔法の事は全く分からないはずのモルジアナでも、あれは彼女のものだとわかったのだ。
「わかりません……ですが……せっかく、これから…皆の役に立てると思ってたのに…!!」
例え離れていても助けてくれる大切な人がいるのに。
役に立ちたかった。
皆を助けたかったのに、助けられてしまった。
やるせない気持ちが震えとなって体に現れる。
力なく握る拳の行き先が見つからずモルジアナは悔し涙を流した。
その姿に思わず流れたアリババの涙。
「もう十分だ!!すぐにここを出て治してやるからな!!」
モルジアナの手をしっかりと握り、アリババが声を上げる。
しかし先程ザガンが"本体"と言ったものはモルジアナが焼き尽くしてしまった。
"ジン"を殺してしまったらどうやって外に出るのか、と白龍が困惑する。
そんな中、アラジンは冷静に焼き払われて焦げた蔦に触れ、大丈夫だと視線を上げる。
「これは……ジンじゃない」
流れる魔力が、ルフが。
少しずつ騒ぎ出す。
終末予測の未熟性
(疼く)
(私の中の白い魔力が、疼いている)
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夢主出てこなくてすいません…!
しかしこの先どうしてもこういう話が多くなります。
ご了承ください;
補足
113話で魔力操作を酷使した白龍に力を与えたのも同じ原理です。
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